学校法人のM&A
少子化と学校間の競争の激化の中で、学校の生き残りは厳しいものとなっている。その中で、高度で充実した教育を提供するという使命を全うするのは大変であり、学校経営については、根本的な改革が求められている時代となっている。
経営者が高齢化し、M&Aによる事業承継が必要となっている学校も少なくない。
また、私立学校の半数近くは、経営に苦しんでいるという現実もある。しかし、学校の再生には、民事再生というような法的手段は最後の手段であり、法的手段に頼らない再生方法をまず考えるべきである。とはいえ、学校という特殊性から、学校の再生を手がけられるエキスパートは少ない。
当事務所は、学校の平素の経営支援、さらに、M&Aを基軸にしての運営改革の支援に力を入れている。
また、学校の再生については、法的手段に頼らない方法を優先して、様々な方法を検討しながら、その再生の実現に力を入れている。
1 私立学校法人とは
  1. 私立学校は私立学校法に基づいて設置され、私立大学、私立高等専門学校の設置は文部科学大臣、私立高等学校以下の学校を設置する学校法人は都道府県知事が所轄する。
    私立学校法

  2. 出資は寄付行為による。剰余金の分配(会社の株式配当)はない。
    解散しても、残余財産の分配はない。寄付行為に定めるところにより、学校法人その他教育事業を行うところに帰属し、それでも処分されない財産は、国庫へ帰属する。寄付者に戻ることはない。

  3. 役員は理事5人以上、監事3人以上。ただし、各役員において、その配偶者又は三親等内の親族が一人を超えて入ってはならない。
    業務の決定は、寄付行為に特段の定めがない限り理事の過半数の決議で行われるが、基本財産の処分は、理事総数の3分の2以上の特別決議で行う。
    役員のほかに、理事の定数の2倍を超える評議員を置く。評議員会は、学校法人の業務若しくは財産の状況又は役員の業務執行の状況について、役員に対して意見を述べ、若しくはその諮問に答え、又は役員から報告を徴することができる。

  4. 準学校法人は、専修学校又は各種学校の設置のみを目的としている私立学校をいうが、学校法人に準じて扱われる。

  5. 法人税は非課税である。ただし、収益事業をおこなうと19%の法人税がかかる。
    みなし寄付として、非課税となる収益金の組み入れ率は50%(200万円未満の時は200万円)。
    非営利法人に対する課税の取扱い

    その他、所得税、登録免許税、住民税、事業税、事業所税(収益事業にかかるものを除く)、不動産取得税、固定資産税、特別土地保有税、都市計画税(目的外不動産を除く)は、非課税。
    学校へ寄付した者への税制上の優遇措置がある。
    学校法人の税制上優遇措置

  6. 学校法人は、その事業目的において公共性が高く、企業のように営利を追求するものではないので、会計原則も、企業のそれとはい大いに異なる。
    資金収支計算書は、企業のキャッシュフロー計算書に近い。
    消費収支計算書は、消費収入と消費支出の内容と均衡状態を表し経営状況を表す。損益計算書に近い。
    貸借対照表は、財政状態を表す。
    基本金は自己資金を表すもので、企業の資本に近いものである。
    学校法人の会計基準
    学校法人の会計基準―文科省
    公益法人関係税制の手引き―国税庁

  7. 学校の設置は、私立小学校設置基準、私立中学校設置基準等の設置基準による。
    学校法人設置基準―文科省

  8. 学校の運営は、次にのべるように決して易しくはない。教育者が年功序列で、経営に携わるようでは上手くいかないであろう。
    学校経営のプロが要請されるべきであり、そこまで行かなくても、コンサルタントが経営支援すべきである。
    入学希望者が多ければ、それだけで経営状況が改善される。そのためのスキルは会社のマネジメントとは異なる。いずれにしても、学校法事のコンサルタントは、営利法人を支援するためのスキルと全く異なるマネジメント能力が必要となるはずである。
 
2 学校法人のブランド力の重要性
学校法人にとって、より多くの入学希望者を引きつけられるということは、最も大事なことである。それは、まさに学校のブランド力である。
教育理念、校風、歴史と伝統、優秀な教師陣、教育施設などの充実がその中核となる。
学校名を変えただけで受験生が増えたという例がある一方、移転したところ受験生が減少するという例もある。
卒業生の進学、就職実績は、学校にとって最も重要である。
スポーツや音楽の対外的成果も、効果は大きい。
卒業生で成功した者に、学校のPRに協力してもらうことも必要である。
 
3 学校法人の寄付
・学校法人は、寄付をいかに集めるかが重要である。ことに、卒業生からの寄付は、重要な財源である。
寄付者に優遇措置がある。
・寄付を集めるスキルは、充実させるべきである。
寄付者の優遇措置―学校法人の寄付金関係の税制―文科省
 
4 学校の収益事業
・学校は、営利を目的とはしていないが、運営基盤を確保し、強化するために、収益事業を行うことが予定されている。 ・収益事業をおこなうと19%の法人税がかかるが、普通法人が25,5%なので、優遇されている。
例えば特許を有する大学は、それを使って事業展開しておかしくなない。特許自体を売却しても良い。
優れたテキストを学外に販売するとか、社会人講座、公開講座、インターネット講座なども活用すべきである。
・利用していない不動産は、売却するか収益事業に活用すべきである。 ・収益事業に属する資産のうちから収益事業以外の事業のために支出した金額がある場合には、その支出した金額を寄附金の額とみなして、寄附金の損金算入限度額の範囲内で損金算入を認めるものみなし寄付として、非課税となる収益金の組み入れ率は50%(200万円未満の時は200万円)。(詳細: 非営利法人に対する課税の取扱い ・関連企業を設立して、運営委託をすることも検討されるべきであろう。
学校法人専門の、コンサルタント、アシスタントがあるべきである。(詳細:学校法人会計基準のあり方について
 
5 資金の運用の重要性
・学校にとって、運用は重要である。学費は、学年の初めに納入されるので、その後の運用が必要となるからである。 ・基金は、独立法人で、倒産隔離をして運用すべきであろう。デリバティブで大失敗したケースが続出したが、それを避けるべきなのである。 ・運用はプロに委託することも検討されるべきであろう。
 
6 学校法人のM&A
  1. 学校法人のM&Aは、学校法人間で行われることになる。常に、所轄庁の認可が必要である。
    財務的の面だけでなく、学校の教育理念や学風、運営スタイルのような文化面、規則や内部統制、ITシステムの統合、記念事業や卒業生、後援会など、付随する仕組みとの調整が必要である。

  2. 学校法人のM&Aは,理事長に後継者がおらず事業承継の必要があるのに身近に後継者がいない場合もM&Aを検討すべきである。
    経営支援として資金を注入するためにも、M&Aは重要な選択肢である。負債が過大である場合も、M&Aは学校の経営の立て直しのために重要な手段である。

  3. 報道された中では、
    桐蔭横浜大学法科大学院と大宮法科大学院(2011年6月)
    東洋大学と東北学園(2011年4月)
    中央大学と横浜山手女子学園(2011年4月)
    関西学院と聖和大学(2009年4月)
    慶応義塾と共立薬科大学(2008年4月)など

  4. M&Aの手法としては
    @ 役員の入れ替え
    ・法人自体の譲渡である。 ・理事長及び理事の退職金が事実上の対価となる。
    A 事業譲渡 ・学校法人内の、個々の学校だけを譲渡する場合である。設置者が変わるので、設置者変更の認可が必要となる。
    別法人に事業を譲渡し、旧法人は、解散するか、事業を縮小して続行する。
    財産、契約関係、債権債務、労働契約等を、個別に移転し、個別に対抗力を取得する必要がある。そのため、実務処理は煩雑となる。
    譲渡人は、学校法人である。
    ・この時は、事業の対価が重要となる。利害関係人は、専ら、銀行であり、回収可能性の観点から、対価が考えられることになろう。
    純資産価値に、暖簾が加わったものが基準になるであろう。

    B 合併  ・私立学校法52条から57条に基づき、学校法人間で可能である。
    新設合併(新たな法人を設立し、全部が解散する)と吸収合併(一つが存続し、他方が解散する)がありうる。通常、後者であろう。
    ・理事の3分の2の同意が必要。定款で評議員の同意が必要な時は、その同意も必要。所轄官庁の認可が必要。 ・退任する理事の退職金が重要である。 ・債権者には広告と個別催告し、異議が出たときには、原則として、弁済するか、相当の担保を提供する必要がある。
    この点の対策が、極めて重要となるはずである。
    ・税法適格:会社の合併と同じく、税法適格かどうかが重要である。「非適格合併」と認定されると、学校法人には法人税が課税される余地が出る。
    会計処理として持ち分プーリング法かパーチェス法か?
    合併を現物出資的にとらえれば、承継される資産は減価の評価替えすることとなる。
    人格の合一ととらえれば、簿価を引き継ぐパーチェス法となる。
    法人の合併の場合、法人税の課税を受けないようパーチェス法で処理する必要があるため、税法適格となることが実務上重要である。
    しかし、学校法人の場合、収益事業からの収入でない限り非課税なので、その後の学校経営を考えると、時価で引き継ぐのが合理的だと思われる。ただ、これは、基本金の引き継ぎ価格にも影響を及ぼすので、検討を要する問題である。

    C 学校特有の業務提携・連携
    業務提携・連携で、教育、研究力を向上させて、教育、研究成果を上げることにより、多くの生徒。学生を集めることができる。
    少ない投資で、多くの成果を上げることができる。

  5. M&Aを考える場合、誰に頼めばよいのか。
    M&Aの仲介は、専門の業者がいる。しかし、M&Aも仲介に、ライセンスは不要であるし、業法も、監督官庁も無い。全く野放し状態である。そのため、M&Aの仲介業者は、ピンからキリまでである。
    また、監督官庁によるガイドラインさえ用意されていないので、一社の仲介業者が売り手と買い手の双方代理をし、あるいは、利益相反行為を平気で行っているという、呆れたケースが目立つ。
    当事務所は、そのような現状を是正するため、売り手、買い手のいずれかから依頼を受けた場合、いかなるスキームでM&Aを勧めたらよいかを十分検討したうえ、自らの人脈を駆使し、あるいは、十分に信頼できるM&A仲介業者に声をかけて、相手を探すことにしている。
    これにより、適格な相手を探すことができるとともに、買い手、売り手別個の代理人が立つこととなり、それぞれの利害を的確に保護しながら、最適のM&Aを実現することを、目指しているものである。
 
7 経営が困難になった学校の再生
少子化の中で、私立学校の中では経営に行き詰っているところも少なくないといわれる。これら、経営に苦しんでいる私立学校を再生建する手段としては、様々な手段がありうるはずだが、そのなかでもM&Aは重要な手段となるものである。
  1. 金融機関からの融資、学校債、寄付による財務力の強化、又は、従来の借り入れの条件変更(いわゆるリスケ)をすることになる。
    学校債の有価証券指定について

  2. M&Aによる救済
    M&Aは、経営が困難になった学校にたいする、学校法人による救済である。
    学校の再生には、最も重要な手段であろう。

  3. 債権カットが必要な時は
    M&Aでスポンサー学校を確保するとともに、特定調停で債権カットを求める方法と、
    M&Aでスポンサー学校を確保するとともに、民事再生法で債権カットを求める方法がありうる。
    特定調停は、相手を特定して裁判所に申し立てる。申し立てることができるし、手続きが柔軟であるため、利用範囲は大きい。また、世間的には、倒産とは見られないので、生徒に対する影響を抑えることができる。

    日本私立学校振興・共済事業団からの借り入れ
    学校法人の中では、日本私立学校振興・共済事業団から借り入れを受けているケースが多いはずである(1330校が借り入れを受けているという)。しかし、経営再生のために債権カットが必要な時、この種の公的機関から債権カットを受けることは事実上不可能なので、注意を要する。

  4. 銀行借り入れが不良債権化している場合は、金融機関から債権をスポンサーが買い取るという手法もありうる。世間的には、倒産とは見られないので、生徒に対する影響を抑えることができる。

  5. 金融機関と話し合いがつかない場合は、法人内の学校の事業を事業譲渡して、法人は、破産で処理するという方法もありうる。事業譲渡の対価が重要となる。

  6. いずれにしても、学校の再生は、学生・生徒の教育環境に悪影響を与えないということを最優先でスキームを考えるべきである。どうしても破産しか選択肢がない時は、関係者は、学生・生徒の受け皿の確保をすることに尽力すべきである。
 

M&A・企業再生・民事再生の弁護士-金子博人法律事務所