中小企業の再建・再生のためのM&A
1 なぜ中小企業の再建・再生にM&Aか?

企業経営に行き詰まり感じた時は、その原因を分析して、即急に対策を立てる必要がある。その対策は、企業の深刻度に応じて選択することになる。
企業の再建は、先ず売り上げを増やすことである。経費の節約は当然だが、いくら節約しても売り上げの増加をしなければ、再建は不可能である。
また、M&Aも活用すべきである。事業体は余力のあるうちに売却し、力のある企業により再建してもらうことは社会的に有益である。
M&Aで会社は売却するが、買い手をスポンサーとして、自らは経営を継続するという手段もある。経営に行き詰まってもM&Aで解決できるケースは多い。
財務状況が深刻で債権カットが必要な場合は、M&Aとセットで、特定調停、民事再生法の活用や、第二会社方式、スポンサーによる担保付き債権買取という方法もある。
中小企業に取りM&Aは、企業の再建・再生の手段として常に検討すべき効果的な手段である。

 
2 なぜ民事再生法でなく特定調停か?

経営が行き詰まり債権カットが必要となると、一般には民事再生の申し立てを考えるようだが、その前に特定調停を考えるべきである。
民事再生法は、半年間で再生計画の認可までこぎつけなければないので、手続きは速やかである。しかし、手順が法定され、スケジュールを裁判所が決めるので、柔軟な処理ができない欠点がある。
また、取引先の支払いをストップしなければならないので、世間的には倒産として扱われる。そのため、取引先に多大な迷惑をかけ、それ故取引の継続がうまくいかないことも多い。民事再生法は意外と使い勝手が悪いのだ。
取引先の支払いを止めなくてもキャッシュフローが確保できるだけの余裕があれば、金融機関だけを相手にできる特定調停を簡易裁判所に申し立てることは効果的である。特定調停によっても競売や強制執行を止められるし、金融機関から債務免除を得ることも可能である。民事再生と同等の強力な手段であるが、それよりも使い勝手が良いのである。
特定調停は、取引先との取引に影響を与えないので、一般的には倒産とは扱われない。積極的に活用すべき手段である。
ただし重要なことは、民事再生も特定調停も、M&Aによりスポンサーを確保することで、成果をあげられるということである。

 
3 第二会社方式という効果的な方法!

スポンサーとして買い手が確保できれば、第二会社方式がより効果的なことが多い。
これは、スポンサーが第二会社を設立し、この第二会社が事業を買い取って旧会社自体は破産で清算してしまう方法である。事業の譲渡代金が破産財団に組み込まれ、債権者に配当して清算することなる。
従来の経営者が第二会社の経営を引き受け、旧会社は別人が清算人になって清算するということも可能である。
ダイナミックで極めて効果的な再建法であるが、M&Aに精通した優秀な弁護士がリードすることが成功のカギである。この時の弁護士は、M&Aの買い手も探索できるノウハウも有していることが必要である。
当事務所は、第二会社方式の解決をリードできるノウハウと経験の蓄積が豊富にあると自負している。

 
4 民事再生法も無視できない手段!

民事再生手続きは使い勝手が悪いことは前述したが、裁判所が全面的に関与するし、半年間で再生計画の認可まで行けるよう制度設計されているので、財政状況が深刻で取引先の支払いを停止する必要がある時は積極的に活用すべき手段である。
民事再生は原則として債務者自ら再建をはかる手続きであり、経営陣は退任する必要はないが、管財人を選任し、管財人が再建を全面的に遂行する方法もある。役員や株主間で意見がまとまらない時は、管財人による再建が合理的なことも多いようだ。
企業の再建には、会社更生法もある。会社更生法は手続きが複雑なため、規模の大きい大企業の再建に向いている。しかし、会社更生では担保権者も手続きに取り込めるので、金融機関を手続きの中に引き込む必要がある時は、中堅企業でも使うことを考えてよいであろう。
なお、会社更生法では更生管財人が再建に当たるということに特徴があったが、最近の改正で債務者自ら再建に当たることも可能となったので、活用の幅が広がっている。

 
5 担保付債権の買い取りという奥の手!

ゴルフ場や旅館、ホテルなど不動産が担保の時は、会社を買い取るM&Aと並行して、銀行債権を担保不動産ごと買い取る方法がある。
例えば、温泉旅館でのケースで、銀行借入れ5億円で、旅館の建物、敷地が担保に入っている場合、年間売り上げ2億円、不動産価値は8,000万円とする。これは債務超過状態で、銀行債権は不良債権化している。
この例では、会社の株式はゼロ評価で買い取ると同時に、サービサーを通じて銀行債権を担保付きで買い取るという手法がある。代金は時価であり、不動産価値の8,000万円でOKである。
銀行から見れば、貸し付けは不良債権化しているので、本来は抵当権実行しか回収方法はないが、抵当を実行して競売にかけても、とても8,000万円は確保できないで、売却に応じてくるのが普通である。
この手法の利点は谷もある。買い取る債権に社長の個人保証も随伴するので、解決の面倒な個人保証もスポンサーとの交渉で解決できる点である。まさに、「奥の手」というべき手法である。

 
6 個人保証の解決

会社が再生しても、社長の個人保証は会社の再建手続きとは別である。民事再生や特定調停の場合、個人保証は対象外なので、個人保証はカットされることなく全額残る。
ただしM&Aとセットで再建・再生を図るときは、スポンサーや新社長が引き受けてくれるよう交渉すべきこととなる。
担保付債権買い取りという解決法は、スポンサーに個人保証まで買ってもらうため、個人保証の解決としては、極めて効果的なことは前述した。
どうしても個人保証が残るときは、社長個人について特定調停や民事再生を申し立てるのも方法である。
自己破産の方法を選ぶと債務は免責されるが(税金や損害賠償は免責されない)、財産も失ってしまう(年金や家財道具は対象外である)。しかし、自己破産しても開始決定後の収入(給料、顧問料等の定期収入)は自由財産となり破産財団に組み入れられることはないので、早めに破産を申し立て、開始決定後は縁故のある会社で給料や顧問料を得ながら充電して、免責を受けた後事業に再挑戦するという例も増えているようだ。
自宅を管財人から親戚、知人に買ってもらい、そこを借りてするという形で、自宅を守るという手段もある。
解決法は、いろいろあるのだ。

 
7 破産も再挑戦のステップ!

バブルの時期ころまでは破産というと社会の落後者のイメージがあったが、バブル後の経済の停滞の中で破産は稀な現象でなくなり、そのイメージは大いに変わった。また、多重債務者の処理の中で破産が多用され、どこにでもある社会現象となってしまった。
従って、今や、破産のマイナスイメージは多いに薄まり、恐れる必要はなくなったと言えよう。
企業の経営者は、経営が破綻した場合「さっさと」破産し、同時に自分も自己破産して保証債務の免責を得て無借金となり、再挑戦するというのも、意義のある選択肢である。
自己破産しても、前述のとおり開始決定後の収入は全部自分で使えるので(破産の配当に回す必要はない)、例えば、知り合いの会社に顧問で雇ってもらって収入を確保し、再起の準備をするということも可能である。
個人の破産の場合、不利益はさほど多くはない。復権(免責と一緒に出る)まで会社役員になれないことと、破産が終結するまで郵便が管財人事務所に行ってしまうこと、終結まで海外に出るには裁判所の許可がいること、8年間くらいはブラックリストに載るので、クレジットカード等が組めないことくらいである。
なお、資格で仕事をする者は破産で資格が停止してしまうので、破産を避けて個人の民事再生手続きをする必要がある。

 

M&A・事業再生の弁護士-金子・福山法律事務所