第4次産業革命 IOTの戦略

日本企業の人材育成はインド人を見よ!

1.インド人のCEOはキラボシのごとく!

 1)2014年、ソフトバンクがインド人のニケシュ・アローラ氏を報酬165億円で迎えた。桁違いの報酬の高さでもびっくりしたが、彼がインド人であることもびっくりさせられた。そして、孫正義社長の後継者となることを予定していることでも、さらにびっくりした。
 彼はインド生まれで、インドの大学を卒業後アメリカに移住し、ボストンカレッジで理学修士号、ノースイースタン大学でMBAを取得したが、さらに米国証券アナリストの資格であるCFAも取得している。
 フィデリティ・インベストメンツとパトナム・インベストメンツでアナリストとして活躍後、1999年ドイツテレコムに入社した。2000年にはT-Mobile Internationalの関連会社T-Motion PLCを設立し、T-Mobile欧州事業の最高営業責任者(CMO)や取締役をつとめたとウキペディアにある。
 2004年、グーグルに入社後、グーグルの世界展開に貢献し、ナンバー2のCOO(最高経営責任者)に上りつめたところを、孫氏が口説き落としたとのことだ。
 彼につい言えば、その人脈の広さは全世界に広がっており、半端でないという。なぜ、そのような人脈を築けたかといえば、いくつもの大学で学び、自分が活躍できる場を求めて、渡り歩いている。渡り歩くことで、自分のプロフェッショナルな実力を築くとともに、人脈を築いたのであろう。

 2)ところで、2015年、グーグルは、インド人のサンダー・ピチャイ氏をCEOに抜擢し、世間と報道界を驚かせた。年齢も43歳という若さだ。
 彼はインド工科大学でエンジニアリングを学び、奨学金を得てスタンフォード大学に進んだ。そこで博士号を取得し研究者になるはずだったが、シリコンバレーの半導体メーカーApplied Materialsでエンジニアの職を得たので大学をドロップアウトした。ところが2002年にビジネススクールのウォートンに転身し、MBAを取得。マッキンゼーでコンサルタント職を務めた後、2004年からグーグルに入った。グーグルでは、Google Chrome の事業化をすすめ、大成功を納めた。その結果、彼は上席副社長から今回の組織再編でCEOに任命された

 3)これに先立つ2014年、スティーブ・バルマー氏のあとを継いでマイクロソフトのCEOに就任したサティア・ナデラ氏もインド人だ。マンガロール大を卒業後、ウィスコンシン大学ミルウォーキー校で情報科学の修士号を取得し、さらにシカゴ大学でMBAを取得。その後、サン・マイクロシステムズを経て、1992年、マイクロソフトに転職した。

 4)ソフト会社のアドビのシャンタヌ・ナラヤン氏もインド人だ。彼は、2007年に44歳でCEOに就任した。インド人CEOの先駆者の一人であろう。彼は、インドのハイデラバードで生まれ、電子工学の学士号、コンピューターサイエンスの修士号のほか、UCバークレー校のMBAを取得している。2016年にBarron's誌の世界最優秀CEOのうちの1人に選ばれている。

 5)インド人のCEOは、アメリカだけではない。ノキアのCEOのラジーブ・スリ氏もインド人だ。彼は1967 年インド生まれのシンガポール国籍で、今はフィンランドのエスポー在住。マニパル工科大学で工学士を取得(電子・電気通信)後、1995年、一技術者として入社したが、インドを含むアジア太平洋地域やアフリカ、本社で実績を上げ、2009年10月から2014年4月まで、ノキアソリューションズ&ネットワークスのCEOを務め、大幅な赤字から黒字への転換を実現するとともに、10 億ユーロから90億ユーロへと企業価値を高めた。そして、2014年4月ノキア本体のCEOへ就任した。
 ノキアは2011年までは世界最大の携帯電話端末メーカーで、市場占有率と販売台数で、1998年からトップを維持していたが、その後、スマートフォンの流れに乗れず、2012年サムスン電子に追い越され経営危に陥り、大規模なレイオフを経て、2013年9月、マイクロソフトに携帯電話事業を売却して、2014年4月25日に買収手続きが完了した。
 ラジーブ・スリは、この時、同社の再建を託されCEOに就任したのである。それにこたえ、アルカテル・ルーセントの買収、HEREの売却、デジタルヘルス企業Withingsの買収、そしてブランドライセンス契約を通じたノキアブランドの携帯端末事業への再参入など、再生ノキアを率いている。

 6)さらに世界を見まわすと、世界最大の鉄鋼メーカー、アルセロール・ミッタルのオーナーであるラクシュミ・ミッタル会長兼CEOもインド人だ。ミタル氏は、業績不振の鉄鋼会社を次々と買収し、利益を生む企業に生まれ変わらせる「錬金術師的な手腕」といわれている。
 ペプシコのインドラ・ヌーイ会長兼CEO、フラッシュメモリーメーカーであるサンディスクのサンジャイ・メフロトラ社長兼CEO、米半導体製造メーカーのグローバルファウンドリーズのサンジャイ・ジャーCEO、英酒造会社ディアジオのイワン・メンゼスもインド人だ。
 金融業にも、インド人のトップは多い。ドイツ銀行のアンシュ・ジェイン共同CEO、マスターカードのアジャイパル・バンガ社長、シンガポールDBSグループのピユシ・グプタCEOなどだ。

2.なぜ、インド人がトップを占めるのか?

 1) インド人CEOのなかには、たとえばサンディスクのサンジャイ・メフロトラ氏のように、自分で設立したベンチャー企業を率いているも者もいるが、今目立つのは、入社した会社で地位を上げていきCEOに抜擢されている姿だ。
 彼らは、米国やヨーロッパで生まれ育ったインド系ではなく、インドで生まれ育ったインド出身者だ。このことは、インドという社会にトップを生み出す環境があるということなのだろう。そして彼らは、世界を渡り歩き、複数の大学で学び、広く熱い人脈を形成している。技術者でありながら、MBAを取得している者が多いことも注目すべきだ。多様な経験と多用な学歴を持つのだ。

 2)南ニューハンプシャー大学の調査によると、インド人指導者の方が米国人指導者よりもリーダーシップ力がより高く、「将来を見据えて行動する傾向が強い」といい、「謙虚さとプロ意識という、一見すると相反する性質を見事に共存させている」と指摘する。そして、「競合他社や競合製品と無理に対抗しようとせず、むしろ提携によって事業を発展させる」という。
 「謙虚さとプロ意識」の両立だけなら、日本人も負けないかもしれない。また、「提携によって事業を発展させる」ということも、手が届かないものではないだろう。
 しかし、日本人が、インド人のように世界の巨大企業でトップに立つということは、ありえないであろう。
 要するに、「将来を見据えて行動する」という点に、決定的な差があるのだろう。別の言い方をすれば、「洞察力」の差である。

 3)インド社会は大家族だ。家族を大事にすることから、謙虚さを持ち、「世間を騒がせることなく組織を強くする術」を身につけているのだろう。自己主張を表に強く出す伝統的アメリカ文化とは真反対である。
 これらを見れば、インド人と日本人を比較すれば、共通点はかなり多いはずだ。しかし、決定的に違う点は、「洞察力」だ。
 仏陀を生み、深遠なインド哲学を生み出したインドには、深い「洞察力」を生み出す社会的、文化的背景があるのだろう。
 インド人は、理数系に強いことが指摘されている。それは抽象的な思考に強いということであり、インド社会には、人間社会や人の能力、自らの組織、企業社会のかかわりや将来に対する深い「洞察力」を養う要素があるのだろう。
 インドでは、2000以上あるというカーストの中で生き抜くためには、深い「洞察力」を必要とするのだろう。
 また、インド人CEOが、技術者でありながら経営学を学び、大学や勤務先を移しながら、キャリアアップをし、豊かな人脈を構築するという多様性は、カーストの中で生き抜くための知恵から来ているのかもしれない。

 4)インドの歴史を見ると、興味深い。各地方で、独自の王侯を持ち、独自の文化を形成させて、これを一つに統一しようする歴史的エネルギーは殆どなかった。また、外に侵略していったということも、稀であった。
 このことと、インド人のCEOが、「競合他社や競合製品と無理に対抗しようとせず、むしろ提携によって事業を発展させる」という性格を持つということ、関連があるような気がする。

3.日本の企業社会はどうあるべきか?

 1)日本人は、周り合わせ、「和」を保つことが理想とする。インド人の様な「洞察」は、むしろ邪魔となる。必要なのは、「空気」を読むことだ。
 人とあっても、名刺の肩書で相手の能力を判断し、そこで思考停止してしまい、その人の本当の能力を洞察することが苦手だ。
 「洞察」して、人と違うことをすると、「和」を乱すことになる。「ムラ社会」では、違いや変化、競争は、それ自体和を乱すものであり嫌われる。必然的に、リーダーも、「洞察」を持つことは不要であり、調整ができれば十分ということとなる。
 競争も、周りを見ながらする。横並びの競争といってもよい。知恵を絞って、他と違うことをしようとしないので、価格競争となる。宅配のオーバーワークが問題となったが、何故、この問題が起きたかいえば、どこの宅配業者も、一律に無料で再配達、再々配達をして、それを配達員の犠牲の上で行った結果だ。「横並びの競争」の典型である。
 「競合他社や競合製品と無理に対抗しようとせず、むしろ提携によって事業を発展させる」という、インド人CEOの知恵は、「横並びの競争」とは対極である。

 2)「洞察」力が弱いと、「改良」はできても、「イノベーション」は生まれない。日本は、戦後高度経済を成し遂げた。この時、「追いつけ、追い越せ」で頑張ったが、先進国に対するキャッチアップでは、「改良」はあっても、「イノベーション」とは無縁であった。
 今や、「追いつけ、追い越せ」の時代は終わり、「イノベーション」の時代となって、戦後高度経済を支えたシステムが、足を引っ張ることなった。その最たるものは、「新卒一括採用主義」であろう。これは、日本にしかないものであ、戦前の日本にもなかった、戦後高度経済成長時代の遺物である。
 「新卒一括採用主義」は、年功序列、終身雇用とセットで、中途採用を嫌う、高度な「ムラ」を形成した。それは、「タコツボ」のごとく高度に排他的な「ムラ」であった。そこでは、「洞察」力など無用であり、「和」を乱すもので邪魔な存在であった。
 いずれにしても、インダストリー4.0で勝つためには、日本の企業文化を抜本的に変える必要がある。そのためには、まずは「新卒一括採用主義」を廃止すべきであろう。
 しかし、そのようなことを言うと、「そんなバカなことを言うな。それでは、優秀な人材を取れないではないか」という反論がでるであろう。だが、それには次のように答えよう。
 「新卒一括採用主義は日本にしかない特殊制度である。なぜ、日本だけが、それに頼らなければならないのか」、「今活躍しているインド人に、新卒一括採用主義で育ったものはいない」と。


M&A・事業再生の弁護士-金子・福山法律事務所