第4次産業革命 IOTの戦略

<第一回> インダストリー4.0 日本の製造業は世界の下請けになってしまうのか?

第1.インダストリー4.0で、米独連合が成立するのか?

 世界最大のハイテク産業見本市である、ドイツのハノーバーメッセ2016は、2016年4月25日からスタートした。今回は、注目すべき出来事があった。それは米国のオバマ大統領が出席し、メルケル首相と会見し、提携を宣言したことだ。
これに先立ち、16年3月上旬、実務者レベルであるが、米中はチューリッヒで、規格標準化へ向け協調することで合意していた。そして、トップ会談をうけ、ドイツのインダストリー4.0コンソルシアムと、IIC(The Industrial Internet Consortium)が提携し、標準化への工程表や見取り図を互いに持ち寄るという合意が成立した。
この提携は、このままでは、日本の製造業が米独連合に屈し、単に部材提供するだけの国にならざるを得ないことを意味する。日本としては、抜本的な対策を真剣に考えなければならないはずだ。
日本の産業界は昨年3月のメルケル首相の訪日以来、ドイツ生まれの「インダストリー4.0」と、米シリコンバレーでのイノベーションの爆発に直面し、テンヤワンヤとなっている。にもかかわらず、この米独の提携にほとんど無関心なのは、実に奇妙なことだ。
この動きを分析するためには、GEの動きを思い出す必要があろう。GEは、インダストリアル・インターネットを提唱し、2011年には、シリコンバレーにGEソフトウエアを設立した。クラウドとAI(人工知能)の技術を駆使して、顧客にモノやヒトの最適運用、エネルギーの最小化、故障の極小化を実現し、「メーカーがサービス業となる」ことを目指している。
そして、これを可能とする、Predixという産業用ソフトを開発した。これはクラウド用のOSで、顧客にとっては、最低限のコンピュータ環境を備えれば、目的の最小化・最適化が獲得できるので、最低限の設備投資で目的が達することができる。
Predixは、生産ラインのロボット、工作機械や検査装置を統括して最適化できる。さらに、インターネットで生産ラインを販売店、配送、部材メーカーをつないで、Predix で統括管理すれば、インダストリー4.0が目指す、多品種少量生産も実現できる。
GEは、このPredixという産業用ソフトを、2014年10月にオープン化し、オープンプラットフォームとしている。同時に、普及啓蒙を目的にしたIIC(The Industrial Internet Consortium)を設立した。創設メンバーは、GEのほか、AT&T、Cisco、Intel、IBMという、アメリカ産業界をけん引する5社であった。
このGEの動きは、Predixが産業界の標準OS、つまり、ウインドウズの産業ソフトバンを狙うものといえよう。現に、IICは拡大し、現在では、富士通や日立製作所などの日本企業を含め、世界で85社以上、たぶん、100社近くが加盟しているはずだ。
シリコンバレーのイノベーションは、これだけではない、ことに、リーマンショックの不況の中で、有数な技術者が集まり、多数のベンチャー企業が誕生したが、ここでのイノベーションは、まさに爆発というべき状況である。それをさらに、GoogleやAppleなどのITのジャイアントが支援し、イノベーションを我が物としようとした。その結果、AI(人工知能)、ロボット、自動運転、宇宙ロケットで、脅威的な成果を獲得することとなった。
このアメリカのイノベーションの爆発に、待ったをかけようとするのが、メルケルのドイツであった。
まず、GEの永久のライバルであるシーメンスが、発電所や工場全体の統括管理するシステムズづくりで対抗し、自国だけでなく、中国で実証することにより、標準化を目指すこととなった。
さらに、2011年11月 メルケル政権は、High‐Tech‐Strategy2020行動計画の中で、インダストリー4.0を採択した。2013年4月、「インダストリー4.0」プラットホームを発表し、これには、シーメンス、ボッシュ、VW,BMW, ダイムラー、ルフトハンザ、ドイツポストなどの巨大企業のほか、中小企業も多数(合計60社)し、さらに、フルンホーファー研究所も参加した。
フランホーファー研究所は、欧州最大の研究機関であり、国内に66の研究所、2万2000人の従業員を擁し、研究分野は、自動車、素材、情報通信、バイオ、化学など多岐にわたる。年間研究予算は、約3000億円(日本の政府系研究機関の合計の4倍)といわれるが、政府援助は22%と少ない。他は、民間からの研究委託などなど、民間からの資金で運営されている。企業と共に商品開発も多いといわれる。
さらに注目すべきは、毎年、研究者の8%を企業に転出させていることだ。これにより、企業間でも人脈の繋がりが幅広く行き渡ることとなる。また、ドイツの大学教授は、フラウンホーファー研究所のような研究機関や、民間企業からから転出した者で構成されるという。この人的な交流が官民学の結びつきを強めるものであり、ドイツ企業がまとまれる秘密がここにあるといえよう。それ故、フルンホーファー研究所は、ドイツの企業群をまとめ上げ、インダストリー4.0を推進する核となっている。
アウディ、BMW,ダイムラーの3社が共同で、ノキアの地図子会社HEREを、28億ユーロで共同買収した。ここで得られる地図情報は自動運転の核となる重要なツールとな
るが、このような共同作業は、自前主義の日本企業はとてもまねのできないものであろう。
さて、このように、アメリカとドイツの実情を眺めてみて、先ほど述べたように、このアメリカとドイツが、国を挙げて連携しようとしていることを、思い出してほしい。無関心で、いいのだろうか。

第2.ドイツと中国の提携を無視していいのか。

 米、独に次いでインダストリー4.0をリードする国はどこだろうか。その答えは中国であろう。
インダストリー4.0やインダストリー4.0は、「メーカーがサービス業となる」となるような、まさに「総合格闘技」である。しかし、「メーカーがサービス業となる」などといえば、それは、中国の国民性そのものである。彼らは生来の商人である。逆に日本人は、「いいものを作れば売れるはず」と、内輪でコツコツと技術開発に努力する、職人的国民性である。
ドイツは歴史的に中国市場に強い関心を抱いている。そのドイツと、「メーカーがサービス業となる」ことが大好きな中国人が、相思相愛の関係で、インダストリー4.0を推進しているという現実がある。
GEの永久のライバルであるシーメンスは、2007年ころから、中国で情報系の機能強化に力を入れている。メルケル政権がインダストリー4.0を打ち出した2011年には、BMWと中国の合弁企業の工場に、1ラインで全車種を製造できる、多品種少量生産を現実化する工場を納入している。13年には、成都(四川省)に、スマート工場を建設した。これらは、シーメンスの多品種少量生産のパイロット版という位置づけのようだ。
メルケル首相は、実は毎年のように中国を訪問している。14年7月には、習近平国家主席との間で、インダストリー4.0の協力文書を取り交わしている。同首相は、「米国の準備の整わないうちに、中国の巨大市場を獲得する。その手段は、標準化だ」と、常々公言しているのだ。
2015年3月のメルケル首相の初訪日は、彼女の7回目の訪中の帰国途中、ちょっとだけ(36時間だけ?)、日本に立ち寄ったものだった。日本は、メルケル首相にとり、ライバルではなく、単なる部品供給国でしかないのだろうか。
とはいえ、これが日本にとり大きなインパクトとなり、インダストリー4.0の大合唱の契機となったことは周知の通りである。
その翌月である2015年4月、ハノーバーメッセが開かれた。そこで、中国をパートナー国に選んだ。メルケル首相は、「ドイツと中国の協力が世界のリードする」と演説し、これを受け、李克強首相がビデオ出演し、「中国にもインダストリー4.0を展開したい」と答え、蜜月ぶりを演出した。
ここで、中国の実情を見るため、車の「自動運転」を見てみよう。ドイツでは、コンチネンタルが1998年より15年間で、100社のM&Aを完遂し、Googleと争う
自動運転の雄に躍り出ており(その詳細は次回としよう)、ドイツの自動運転のレベルは、日本より、かなり先行しているようだ。
2015年6月、中国の検索エンジンの雄であるBaiduは、BMWと共同開発の提携をし、12月には、自動運転の試験走行開始している。実は、2010年から長安自動車は自動運転の開発をしていたが、このBaiduと提携し、一緒に実証段階に入っている。中独連合は、2020年には、中国マーケットで、「自動運転」の展開を想定しているようだ。
ところで、中国のベンチャー力も認識しておく必要がある。2015年のベンチャーキャピトルのベンチャーへの投資額は、米国は約7兆であったが、中国も2,4兆ある。ちなみに日本は、わずか1200億円である。近い将来、中国深センにある深センハイテクパークは、シリコンアレーに肉薄する存在となろう。「自前主義」に固執している日本は、抜本的な手を打たない限り、10年後には、先端技術でも中国に逆転されるはずだ。
スマホは、「技術の70%は日本だが利益の90%はアップル」といわれた。日本は、自己改革をしないと、インダストリー4.0でも、「部品の70%は日本製で、利益の90%は米、独、中が分け合う」となってしまうであろう。いや、このままでは台湾や中国が台頭し、部品でも、優位性は奪われるかもしれない。
ドイツについては、更に気になる動きがある。それは、インドに対するものだ。実は、2015年のハノーバーメッセでは、インドもパートナー国に選んでいる。そして、モディ首相自らエキスポに参加し、メルケル首相と会場を一緒に歩いている。さらに同年11月、メルケル首相は訪印し、幅広い投資の覚書を取り交わしている。インドにも、近い将来、シーメンスのスマート工場が建設されるのではなかろうか。
アベノミクスの安倍政権と、産官学を取りまとめてインダストリー4.0を推進するメルケル首相の目指すところは、かなり違う。しかし、2017年のハノーバーメッセには安倍首相が参加するような、方向転換が必要なのではなかろうか。


M&A・企業再生・民事再生の弁護士-金子博人法律事務所