第4次産業革命 IOTの戦略

第4次産業革命(インダストリー4.0)は、いかなるものか?

1.インターネット時代の幕開けとネットバブル、そして第四次産業革命へ!

 1993年に、アメリカでインターネットが軍から民間に開放され、95年、マイクロソフトがウインドウズ95というOSを販売開始することにより、インターネット時代が幕を開けた。
 人々は、これを通じ、極めて簡便に情報を受送信できるようになり、また、ウエッブサイトにアクセスして、情報を容易に獲得できるようになる。その便利さから、インターネットは、脅威的な勢いで世界中に普及していった。
 インターネットは、不特定多数に瞬時に同一情報を送れることから、その広告効果は抜群で、多数の業者が参入するようになった。e−コマースといわれるものだ。しかし、アイデアは多種だが、当時は技術が追い付かず、90年代末には、バブルという状態となった。このITバブルは、21世紀を迎えるころには、はじけることとなった。ブームを支えるだけの技術が追い付かなかった結果といえよう。
 その後2005年頃より、アメリカでは、インターネットを使ったイノ―ベーションが始まった。その中で、センサー、ビッグデータ、クラウド、人工知能を活用したイノ―ベーションが、産業革命と呼ぶべきものとして、展開するようになった。
 ドイツも2010年ころより、アメリカに対抗する形で官民一体となり、インダストリー4.0の名でイノ―ベーションを目指している。

2.日本の製造業は、アメリカとドイツの下請けとなるか?

 アメリカやドイツの、この産業革命とも言うべき時代のうねりに対し、日本は蚊帳の外であった。その日本でも、やっと、昨年2015年3月の、ドイツのメルケル首相が来日したころから、インダストリー4.0、第4次産業革命、IOTなどの言葉が、経済紙に登場するようになった。最近は、日経新聞や日刊工業新聞などで、タイトルで、この言葉が登場しない日はないという状況となった。
 2015年は、この流れの中で、メーカーはインダストリー4.0パニックという状況となった。ところが、これらの言葉は一般紙にはほとんど登場することはなく、産業界にかかわらない人にとっては、言葉自体を聞いたことが無いという情報ギャップを呈する、奇妙な事態が今の日本である。
 しかし、インダストリー4.0という産業革命は、確実に起こりつつあり、これに乗れなければ、日本の製造業全体が、世界のアメリカやドイツの下請けに身を落とすという、厳しい事態が想定される。
 ところが、産業人は、これが何を意味するか、日本の経済にいかなる影響を与えるものか、自社が何をすべきか、よくわからないというのが真実という状況のようだ。
 日本はスマフォで、「iPhoneの70%は日本製、しかし、利益の90%はアップル!」といわれる,悲しい状況となったが、インダストリー4.0では、今のままでは、「インダストリー4.0の部品の70%は日本製だが、利益の90%はアメリカとドイツが取る」
 という事態を覚悟せざるを得ないことになろう。
 そうなれば、日本の経済はますます低迷し、財政破綻にまっしぐらに突き進むこととなろう。財政破綻を避けるためには、今起きている第四次産業革命を成功させ、世界をリードすることが必須である。

3.それはGEのジェットエンジンから始まった!

 T.GEは、世界を飛ぶジェット機のエンジンの6割以上のシェアを誇る。そのジェット・エンジンには、何百という多数のセンサーが組み込まれている。これがインターネットに接続し、膨大なデータを発信している。
 このビッグデータは宝の山である。それを人工知能で解析すると、最も燃料を消費しない、最適な運航が導き出される。例えば、フラップの制御、降下スピードの調節で、燃費は多いに変わる。人工知能により解析で、最適な運航を実現できるのだ。
 このビッグデータの解析は、故障の可能性のある部品を発見し、早めに交換し、故障による運航の障害を避けることもできる。航空会社にとり、機体トラブルによる運航遅延から来る負担は大きい。それを回避できれば、航空会社に取り利益は大きいのだ。
 このデータ解析を可能とするため、GEは、Predixという産業用ソフトを開発した。これはクラウド上のOSである。注目すべきは、GEは、このソフトを売却するのでなく、GEソフトウエアを設立し、この会社がこれらデータの管理運営をするというサービス業を始めたことだ。メーカーがサービス業を展開することとなったのだ。これが、GEという世界最大のコングリマリットを率いる、ジェフ。イメルトCEOの凄さであり、第四次産業革命の、強力な端緒となった。
 GEソフトウエアは、30社以上の大手航空会社を顧客とし、エンジン以外にもセンサーを設置し、乗務員の効果な配置、荷物や旅客の効果的な取り扱いを見つけ出している。
 さらに、フライトが実際に遅延、キャンセルした時の航空会社を支援している。フライトキャンセルなどが起これば、航空会社は、航空機、乗員をどう展開させるかは、困難な仕事である。その支援は、航空会社に対する大きなサービスとなる。
 設立3年後の14年、GEソフトウエアは、年1400億円の売り上げをあげる大企業となった。まさに、メーカーがサービス業へ!を現実のものとした。
 Predixという産業用ソフトは、マイクロソフトのウインドウズの産業機器版であり、2014年10月にオープン化し、オープンプラットフォームとなった。これは、 OSの標準化を目指すものである。
 GEは、「産業機器メーカーが、情報分析力を磨く」とのもとで、データ分析によるコンサルティング業を推進し、自社のガスタービンや医療機器に展開するだけでなく、さらに食品や日用品メーカー、インフラ企業などあらゆる業種で、在庫や物流の最適化、需要予測に威力を発揮することを目指し得いる。
 predixは、日本では、14年からソフトバンクが販売を開始し、使い始める企業が出始めている。
 今、GEは金融部門を売却し、インターネット・インダストリーに経営資源を集中している。そして、その社員の行動や会社の文化も、変化に即応して変えている。
 このような製造業のサービス業化は、世界に広がっている。ロールス・ロイスも、センサーからのデータ分析により、故障による運航の障害を避けるサービスを開始している。
 いまや、同社の航空機エンジン部門の売り上げの7 割は、IOTサービスによるという。
 仏のシェラトンは、タイヤにセンサーを設置して、空気圧等のデータを分析し、運航の最適化、安全走行の確保するサービスを提供している。
 世界のすう勢は、このように、ネットでつないで、「データを活用したサービス」という方向で、大きく舵を切っている。

4.GEの凄さはこれだけでない。

 GEは、GEソフトウエア―を設立するに当たり、それをシリコンバレーに置いた。これにより、優秀な研究者1000人を集め、ソフト開発だけに、1200億円投入している。
 同時に、GEは、その巨大な金融部門を売却し、インターネット・インダストリーに経営資源を集中している。まさに、同社がよく口にする「集中と選択」なのだろう。
 GEは、ビッグデータの分析のために、人工知能の開発では世界で断トツのようだが、同時に、3Dプリンターの開発に力を入れている。これによれば、エンジンの部品なら、溶接の回数を5分の1にして、耐久性を5倍とすることも可能になるようだ。
 GEは、 開発方法そのものにも、イノ―ベーションを目指している。「ファーストワーク」にも挑戦している。
 技術者は、作り手の思い込みにより、不要なものを開発する傾向がある。そこで、まず、顧客が求める最小限の機能を持つもの―MVP(minimum viable product)―を開発する。それを、顧客に見せて、意見を聞きながら開発する。これにより、「ファーストワーク」を実現する。例えば、ガスタービンの開発期間を、5年から3年に短縮することを目指す。 開発後も、半年から1年で、バージョンアップするという。
 だが、この様なイノ―ベーションに対する経営資源の集中は、アメリカでは、GEだけではないのだ。

5.テスラの電気自動車はイノベーションの実践

 自動車はごく近い将来、電気自動車に収斂するであろう。燃料電池車等ということはあり得ない。なぜならば、自動車を買うのはユ―ザーだかである。電気であれば、自宅や駐車場で止めているうちに、充電できる。わざわざ水素スタンドに行くのは、面倒だからだ。もっとも燃料電池車のほうが車の価格が安く、また、水素のほうが電気より安く、これらが水素スタンドへ行く面倒を相殺してくれればよいが、それは期待できない。水素社会は、車以外のところで発展するであろう。
 さて、その電気自動車であるが、テスラは、アメリカの電気自動車のベンチャーである。高級スポーツカーにパナソニックの電池を乗せて、一回の充電で、500 キロ以上を走る。注目すべきは、納車時から多数のセンサーが設置され、インターネットと繋がっている。近時、自動運転のソフトのダウンロードで、自動で車線変更するレベルまでとなっている。車を買い替えなくても、性能がアップしていくのだ。
 自動車は、同時に、膨大な情報の発信原であり、衝突防止、故障の極小化、最適化運転、さらに、運転手の健康管理、渋滞の緩和などを可能とする。スマートハウス、スマートシティと連携すれば、その可能性は無限である。同時に、膨大なマーケティング情報を提供できるセンサーを備えたデバイスである。
 テスラを率いるイーロン・マスクは、インターネット決済のベンチャーであるペイ・パルのファウンダーの一人で、その売却で、大きな資金を得た。それを、テスラの創業資金とした。ベンチャーがベンチャーを生み、さらに、新たなイノベーションを生もうとしている。
 マスクは、スペースXをも率いている。ロケット「ファルコン9」で送りだした安価で多数の人工衛星から、膨大なデータがもたらされるはずだ。高精度のGPSを提供するなど、宇宙からのイノ―ベーションも、その将来は無限だ。
 とはいえ、使い捨てロケットである「ファルコン9」は失敗続きであり、テスラも、売り上げ純損失率24.5%に達しているようだ。彼の試みはまだまだ開発途上であるが、それでも資金を集められるという、アメリカの資本市場は底が深い。

6.「アップル自動車」はどんな自動車か?

 アップルは、少し前まで、ベンチャー企業であったが、今や、株式時価総額が60 兆を超え、世界最高を争う。日本一のトヨタの3 倍近い。そのアップルは、アップル自動車を2019年に発表すると言っている。果たして、どのような自動車となるのだろうか。
 自動運転の電気自動車であることは容易に想像できるが、インターネットと繋がることにより、それが、どのようなイノベーションを展開するか注目される。
 スマートハウス、スマートシティと対応し、動くオフィスとなるであろう。また、車からデータを取り、GEがやっているように、故障回避などのサ−ビス産業を展開するのだろうか。そのOSは、GEのPREDIXと対抗するものとなるのだろうか。
 自動車は、インターネットと繋がると、高機能の情報端末となる。車は、走行する周辺の情報を取れる。アップルが展開するビジネスはどのようなものか。
 製造方法も注目される。iPhoneのように、工場を持たないタイプを選ぶのだろうか。

7.世界中のロボット・ベンチャーを買い込むグーグルはどこに行くのか?

 ラリー・ペイジが率いるグーグルは、検索エンジンの開発から始まり、ユーチューブ買収、アンドロイド(オープンプラットホーム)の開発と進み、持ち株会社アルファベートの時価総額はアップルを抜き、世界一になったようだ。
 その、グーグルは、世界中のロボット・ベンチャーを買い込んでいる。ロボットは、インダストリアル・インターネットの時代、ネットでつながると、膨大なビッグデータを収集し、高度で様々を活動とする中核的デバイスとなるであろう。これを前提に、グーグルは産業上のアンドロイドの開発を目指しているのだろうか。
 東大発のロボット・ベンチャーで、アメリカ国防総省主催のロボコンで優勝した「シャフト」は、グーグルが買収してしまった。自前主義の日本企業は、どこも手を出さなかったようだ。
 グーグルは、2009 年からグーグル自動車を路上走行させ、自動運転の実験を続けている。
 またグーグルマップは、自動運転のための重要なツールとなっているようだ。
 グーグルは、自ら自動車を製造しないようで、そのため、どの自動車会社と組むかが注目される。12 年にトヨタと提携交渉があったが破談した。他の自動車メーカーとも交渉していたようだが、いよいよ、フォードと提携するようだ。
 ところで、シリコンバレーがあるカリフォルニア州は、15 年12 月、自動運転の規制案を発表した。骨子は、
  @第三者機関による車両の安全性試験と認証
  Aシステム障害など緊急時に運転を変われる運転手の搭乗
  B性能や安全性、利用状況に関する定期的な報告
  C個人情報保護とハッキング体策
 である。
 これに対し、グーグル反発した。ことにAは、運転手の搭乗は無人タクシーの優位性が亡くなると主張という。すでに世界は、自動運転の社会的なルール作りが始まる段階となっているようだ。しかし、日本では法律ができる前から、警察は、自動運転の路上走行を規制しようとしている。変革嫌いは、日本の隅々まではびこっている。

8.ベンチャーを徹底的に育成するアメリカ企業
 グーグルのベンチャーキャピトルであるグーグル・ベンチャーズは、シャフトを買った13年だけでも、年間75社に新規出資している。その内容とみると、機械学習のDNNリサーチ、空中風力発電システムのマカ二・パワー、ジェスチャー認識技術のフラッタ―、人型ロボットのベンチャーであるシャフトと続き、10 年先を見るような出資の流れである。
 同じ年、アップルも、屋内位置情報システムのワイファイ・スラム、スマホ向けのアシスタント技術のキュー、ジェスチャー認識技術のプライムセンス、ツウィッターデータ分析のトプシー等、多数のベンチャーに出資している。
 フェイスブックは、音声翻訳アプリのモバイルテクノロジーズ、モバイル向けデータ管理技術等に出資している。
 ベンチャーを徹底的に育てようとするアメリカは、10年後には、様々なイノベーションが展開しているであろう。自前主義の日本企業は、その変革のスピードについて言っているのだろうか。

9.メルケル・ドイツの覚醒

 ドイツ政府は、2011年11月、High‐Tech‐Strategy2020行動計画を採択し、その中で、インダストリー4.0を宣言した。
 メルケル首相唱導の、このインダストリー4.0プリジェクトは、アメリカの発展に対する危機感からと言われるが、それだけではない。
 ドイツは日本ほどでなくても、出生率1.4で、02年から人口は減少を始めている。
 労働人口が減少し、国内マーケットが縮小する対策として、産業システムの根本的な改革は、社会が求めているものなのだ。ドイツよりも老齢化が深刻な日本は、ドイツ以上に、改革を必要としているはずである。
 さらに急ぐ必要があった。この11年の3月、日本の福島原発の危機に直面し、原発全廃宣言をした。ドイツはフランスから電気を輸入している。そのフランスは、70%を原発に依存している。フランスの原発70 基のうち一基でも福島のような危機に直面すれば、電力の供給は停止する。それを避けるためには、脱原発が必要であった。となると、再生可能エネルギーに頼らざるを得なくなるが、その結果、電気代は上昇する。となれば、徹底した省エネが必要で、インダストリー4.0のようなプロジェクトが必須であったのだ。
 さらに付言すれば、ドイツは、もともと、先進国の中では、日本ほどでないにしても、ベンチャ―の起こりにくい国であった。アメリカのように、民間企業の活力に頼れないのだ。となれば、国主導の対策が必要であったといえよう

10.インダストリー4.0のプラットホームは何か?

 13年4月、「インダストリー4.0」のコンセプトレポートに基づき、プラットホームがまとめられた。それには、ドイツ最大のソフトウエア会社SAPのほか、シーメンス、ボッシュ、VW,BMW, ダイムラー、ルフトハンザ、ドイツポストなどの主要メーカーのほか、中小企業も多数参加し、合計60社に達したようだ。
 事務局は参加者が広範囲のため、ドイツIT・通信・ニューメディア連合会(BITKOM)、ドイツ機械工業連盟(VDMA)、ドイツ電気電子工業連盟(ZVEI)の3か所に置かれた。
 プラットホームの内容は、次の通りであった。
 1.ネットワーキングの標準化とレファレンス・アーキテクチャー。2.複雑化するシステムの管理。3.産業向け総合ブロードバンド通信インフラの確立。4.ユーザーの安全とセキュリティー。5.企業組織と就労モデルの検討。6.トレーニングと継続的な能力開発。7.法規制のフレームワーク。8.エネルギー効率の向上
 ドイツのインダストリー4.0の、主導的な標語は、「多品種少量生産」である。それは、顧客の要求、嗜好にあったカスタマイズした製品を提供することにより、市場の拡大を狙うものである。
 これは、消費から素材まで、ネットで繋がり一元管理することで可能となるものであるが、そのためには、クラウド・コンピューティングの活用が重要となる。これは、GEのインダストリアル・インターネットと、共通の発想につながるものだ。
 インダストリー4.0 からは、スマート工場の通信プロトコールの規格の標準化により、世界を主導したいという、強い意欲がくみ取れる。
 例えば、シーメンスは、発電所そのものの統合システムを開発しているが、このソフトと技術は他に転用できるものであり、コア領域とオープン領域の仕分けにより、標準化を強く志向するものである。

11.多品種少量生産は何を目指すか?

 プラットホームの主目的である「多品種少量生産」は、消費者の需要に感応し、消費者の具体的注文に対応して多品種少量生産を実現する工場の生産ラインが、中核となる。
 そこでは、ラインに送られてくるものは、前後で違った製品で構わない。それを、ネットで繋がり、人工知能で管理されたロボットや工作機械などが、製品化していく。
 全く無人という必要もない。人がこなした方が良い部分は、人が配置される。しかし、人間の行動特性も管理の対象となる。たとえば、時間が経つと作業効率が下がるタイプか、時間の経過で作業能率が上がるタイプかなどの人の個性までも組み込まれて、最適な運用が求められる。
 「多品種少量生産」とは、顧客の求めるものに可能な限り対応し、自己の製品を差別化するものであり、インダストリ―4.0の核心は、如何に儲けるかを目指すビジネスモデルである。日本のメーカーは、 インダストリ―4.0は、技術のイノ―ベーションと決め込みやすいが、それでは、「技術に勝っても事業で負ける」ということになろう。
 「多品種少量生産」は、このように、スマート工場を基軸に顧客から素材まで垂直統合し、クラウドコンピューティングによる一元管理をして、顧客の嗜好・選択に答えようというものである。
 それは、統合業務システムERP(Enterprise Resource Planning)と、製造実行システムMES( Manufacturing Execution System)を内容とする。ERPは、企業全体を経営資源の有効活用の観点から統合的に管理し、経営の効率化を図るための手法であり、MESは、クラウドコンピューティング(フィールド機器制御システムなど)による一元管
 理統括を目指すものである。
 その基本は、サイバー・フィジカル・システムCPS(Cyber Physical System)である。工場全体の現場(Physical )の情報を、センサーやRFID(radio frequencyidentifier)を活用して、システム(Cyber)上に取り込み、これを人工知能AIで蓄積・分析し、フィードバックして、現場の生産ラインに反映させるものである。
 一見、トヨタのカンバン方式と似ているが、トヨタ方式は、少品種の大量生産であり、また、自分の内輪で完結する閉鎖的なシステムである。ジャストインといっても、在庫リスクを下請けに押し付けるに過ぎない。インダストリ―4.0では、素材から消費者までネットで繋がる、外に開いた全体の最適管理を目指すもので、下請けの在庫リスクも最小化を目指すものである。インダストリ―4.0とトヨタ方式とは似て非なるものである。

12.ドイツ企業はなぜまとまれるのか?

 ドイツのインダストリ―4.0で羨ましいのは、競合企業、異業種企業が、まとまりあえることである。その時の核となるのが、フルンホーファー研究所である。
 同研究所は欧州最大の研究機関であり、国内に66の研究所、2万2000人の従業員を擁し、研究分野は、自動車、素材、情報通信、バイオ、化学など多岐にわたる。年間研究予算は、約3000億円(日本の政府系研究機関の合計の4倍)といわれる。ただ、政府援助は22%と少ない。他は、民間からの研究委託などなど、民間からの資金で運営されている。企業と共に商品開発もする。
 さらに注目すべきは、毎年、研究者の8%を企業に転出させていることであろう。これにより、企業間でも人脈の繋がりが幅広く行き渡ることとなる。
 さらに、ドイツの大学教授は、フラウンホーファー研究所のような研究機関や、民間企業からから転出した者で構成される。
 この人的な交流が官民学の結びつきを強めるものであり、ドイツ企業がまとまれる秘密がここにあるといえよう。それ故、フルンホーファー研究所は、ドイツの企業群をまとめ上げ、インダストリー4.0 を推進する核となっているのである。
 アウディ、BMW,ダイムラーの3 社が共同で、ノキアの地図子会社HEREを、28 億ユーロで共同買収した。ここで得られる地図情報は自動運転の核となる重要なツールとなるが、このような共同作業は、自前主義の日本企業はとてもまねのできないであろう。

13.コンチネンタルが自動運転の覇者へ!

 インダストリー4.0で、その成果がいま目に見えるものは、自動運転であろう。ところが、実は日本人が気が付かないうちに、勝負がついてしまったようだ。
 自動運転は、レベル2が「運手支援」、レベル3が「緊急時やシステムの限界時には、ドライバーは適切に応じる必要があるもの」、レベル4は、「運転車を必要としない完全自動運転」であるが、アメリカ以外では、ドイツのコンチネンタルが、このレベル4の覇者として、勝鬨を上げる寸前にまで到達している。
 自車のセンサーだと、数百m先の情報しか得られない。レベル4の自動運転を実現するには、角をまがったみえない先の情報も必要である。見えいな情報は事前に用意された地図情報や走行情報で確保できるが、完全ではない。例えば、前の晩の工事で、車線が消えていると、的確に対応できない可能性が出てくる。レベル4では、どうしても即時的な情報を確保することが必要だ。そのためには、先行する他の車から走行環境の情報を得る必要がある。それを実現するには、世界中の自動車メーカーを囲い込む必要があり、これが成功すれば、自動運転の標準を取れるであろう。
 その標準作りに王手をかけているのがドイツのコンチネンタルである。レーダーによるデータの取得と分析で、世界のトップを走るコンチネンタルは、走行している個々の車からの情報を共有するために、いま世界中の自動車メーカーに参加を求めている。これが同社の推進するeHorizon であり、日本企業を含め、かなりの参加者が出ているようだ。
 コンチネンタルの歴史をみると、98年、米国の製造コングロマリットであるITTインダストリーから、ブレーキシャシー部門(電子制御によるシステム)を19億3000万ドルで買収したのが始まりで、その後、独シーメンス、米モトローラからを含め、15年間で100社を買収した。その成果が、eHorizon である。
 技術を急速に高めるためには、M&Aは必須であるが、自前主義の日本企業は、とてもコンチネンタルのまねは出来ないであろう。自動運転では、日本企業はもはや、コンチネンタルの傘下に入るか、アメリカのグーグルやテスラと提携するしか生き残る道はないであろう。 <続く>

14.シェアリング・エコノミーはサービス産業のインダストリ―4.0!

 日本では、インダストリー4.0 は、生産現場だけの現象とおもわれがちであるが、それでは、世界にますます置いていかれる。アメリカでは、インターネットを活用したイノベーションが、サービス産業でも急激に進んでいる。
 資本財やデバイスが使われずに眠っているということは、経済的に偉大な無駄使いである。シェアリング・エコノミーは、使われておらず遊んでいる機器と、それを必要とするものを、インターネットで結びつけ、需要と供給の最適化をはかるものである。その結果、利用するものは安くサービスを得ることができるし、サービス提供者は、多くの利益を得ることができる。
 AirBnBは、ネットによる空室サービスであり、空室をネットに登録し、それを利用して、安価で充実した旅をしている者の需要を満たすものである。AirBnBは、2008年アメリカのカリフォルニアでスタートしたが、既に192カ国で活用され、株式の時価総額は3兆円を超えたという。
 シェアライドのUberは、2009年、アメリカでスタートした、ネットによる空車サービスである。ネットに自分の車を登録し、ネットを通じて、それを利用したい人に、車で移動させるサービスを提供するものである。Uberは世界中で利用され、すでに年間売上6兆円となっている。
 シェアライドは、Uberだけでない。Liftは、乗合をするタイプだ。ここには、楽天も出資している。Night Shoolは、スク−ルバスを夜間利用する。通勤時間帯に特化したChariotは、朝は住宅地からオフィス街へ、夕刻は逆に運行する。
 シェアライドのシステムは、世界中で活用されている。中国では、それをまねたベンチャーが次から次へと登場しているようだ。
 しかし、日本はタクシー業界と国交省が官民挙げて追い出してしまった。世界でほとんど唯一、シェアライドのない国となってしまった。まさに、ガラパゴス状態である。タクシー業界から見ると白タク営業と映るので、二種免許のないものが運用するので、安全が保てないという理屈だ。
 だが、AirBnBやUberでは、借り手は利用した印象をネットにコメントを書き込んで残す。貸し手は、顧客のランク付けをする。これにより、その後の利用の参考にして、質を確保する。金銭の支払いは、ネットを通じてするので、トラブルを回避できる。
 インターネットの利点を活用して、サービスの最適化を図っている。まさに自己責任で安全を図っているのだ。
 とはいえ、タクシー業界は事実上料金を固定し、官が業界を保護し、業者は、官から保護されるという、高度成長時代の護送船団方式をそのまま残し、自由競争が高度に排除された世界である。このような岩盤規制は、日本のあちこちに残っている。排他的で、変化が嫌いな日本の社会は、インダストリ―4.0をスムースに受け入れられるだろうか。
 アベノミクスの安倍政権は、さすがにこれではまずいと思ったようで、16 年3 月、経済特区でシェアライドを解禁する方針を打ち出したが、タクシー業界の猛反発を受けたようだ。
 さて、このシェアリング・エコノミは、今後、資本財が有効活用されていない分野に進出していき、その利用の範囲は増えていくであろう。
 建設機器、医療機器の最適な利用のため、活用されていくであろうし、生産ラインも、
 シェアされることが想定される。だが、日本だけが、蚊帳の外ということがなければよいが。

15.フィンテックもサービス業のインダストリ―4.0!

 フィンテック(Fintech )は、Financial Technology の略である。インターネットを利用した、新たな金融サービスのことで、決済、送金、貸し付けなど、多岐にわたる。ビッドコインもこの一つといえよう。クラウド・ファンディングもこれで、ベンチャー企業の、新しい資金獲得の手段として、今後、盛んに利用されるはずだ。
 フィンテックは、従来の銀行業務の半分くらいにとって代わるだろうといわれている。
 いずれにしても、大きな発展分野である。
 このサービスのインダストリー4.0は、メーカーのインダストリー4.0 との相乗効果は大きい。テスラとスペースXのイーロン・マスクは、インターネット決済のペイパル出身である。このようにメーカーとサービスのイノベーションは、人的にも密接だ。
 米国のユニコーン(時価総額10 万ドル超えベンチャー)の中で、フィンテックの分野でも、すでにかなりある。それは以下のとおりである(15 年末を基準としている)。
 オンラインの決済システムのStripeは、2011 年設立であるが、時価総額57O0億円である。
 大学レベルや成績をデータ分析して、学生ローンを提供するSofiは、2011年設立であるが、時価総額4100 億円である。
 中小零細でも始められるスマホ決済のSquareは、2009年設立であるが、時価総額は3700 億である。
 貸したい個人と借りたい個人を結びつけるP2P融資のLending Club は、2006 年設立であるが、時価総額は3600 億である。
 独自の与信分析で中低所得向けオンラインローンを扱うAvantは、2012年設立であるが、2300 億である。
 P2P融資のProsperは、2006年設立であるが、時価総額は2100億円である。
 データ分析で零細企業に与信をするGabbageは、2009年設立で、時価総額は、1100 億円である。
 米国では、リーマンショック(2008 年)後、銀行業の人材がITへ向かい勢いが加速したという。その成果が、このように、フィンテックの分野で、多数のユニコーンを生む結果となっている。不況は、イノベーションの契機となるのがアメリカだ。このアメリカの勢いは、日本ではとてもまねができない。
 日本では、ビットコインのマウントゴックスが14 年に倒産するという事態が発生し、水をさされることもあった。とは言え、日本でもフィンテクのベンチャーは、まだ弱小だが100 社くらいはある。今後の健闘に期待したいが、その中で、ロボットアドバイザーなどは、面白い。顧客の運用期間、リスク許容度、好みなどを把握し、投資資産の最適配分、手数料の引き下げなどをロボットがアドバイスするものだ。
 前述のとおり、今の銀行業のかなりの部分が、フィンテックに代わるといわれている。
 このことは、銀行は、今からマーケットの縮小に備え、多角化し経営資源を、将来儲かる分野に展開しておく必要がある。
 日本では、みずほ銀行は、15 年10 月、ロボットアドのSMART FOLIOを発表している。金沢の北國銀行は、クラウド会計ソフト「freee」と銀行融資を組み込むことにより、直近の会計情報から、融資を決定することを目指している。三菱東京UFJ銀行大和ホールディングなどが、フィンテクの分野に進出することを検討しているようだ。
 アメリカの勢いに対し、政府も焦りを感じたようだ。16 年2 月25 日、金融庁が仮想コインを貨幣類似のものと認めると発表した。16年3月4日には、資金決済法を改正するにあたり、ビットコインのような仮想コインを、貨幣と認める閣議決定がなされた。
 近い将来、各国の中央銀行も、デジタル貨幣を発行することになるといわれており、日本も、置いてきぼりを食らわない努力が必要だ。
 ところで、フィンテックの発展のなかで、ブロックチェーンという技術が活用されるようになった。ビッドコインなどの仮想通貨取引などに使われるものだ。ブロックチェーンは米ベンチャー企業のR3(ラターが13年4月にスタートさせた)が使い始めた用語であるが、2016年3月時点で、R3のブロックチェーンを使う銀行コンソーシアムに、世界の大手銀行42行が参加するまでになっている。
 しかし、アメリカは、競争が厳しい。R3 には、DAH(デジタル・アセット・ホールディングス)という競争相手のベンチャーがあり、IBMと組んで、「オープン台帳プロジェクト」という名で、ブロックチェーンを展開している。
 ブロックチェーンのブロックは、取引の全ての記録をまとめたもので、サーバーを介さず、ネットで互いに繋がる技術であり、フィンテックだけでなく、製造業のインダストリー4.0 にも応用可能だ。例えば、ロボットなどの機器間の通信に応用できるという。フィンテックは、技術的にも製造業のインダストリー4.0 と密接な関係を持つものなのだ。

16.スマートハウス、スマートシティ、スマート病院はインダストリ―4.0の受け皿!

1) スマートハウスの展開
 スマートハウスは、すでにハウスメーカーで、現実の商品として販売が開始されている。
 その多くは、スマフォで対応できるものである。
 電源は太陽光発電で、蓄電池との組み合わせで、外部から電気を買う必要はないというのが基本型である。そして、インターネットでつながり、遠隔地から冷蔵庫内の食料品を管理するなど生活の利便性の向上のほか、煙、火の遠隔管理をし、期間限定の鍵も活用できるなど、危機管理を可能とする。電灯は必要な時間と場所で点灯し、快適な室温を保つなど、総合的なデータの管理から省エネ、省電力の最適化を可能とするなど、スマートハウスは多面的な機能の展開が考えられる。
 電気自動車とセットにすれば、電気料金の安い夜間に車に充電し、電気の高い時間帯には、車の蓄電を利用するということも可能となる。
 高齢化社会の到来で、介護費用をいかに抑えるかが重要課題となっているが、その手段としては、施設介護より在宅介護をより多く活用することが求められている。そのためには、スマートハウスが効果的である。遠隔管理により、睡眠等の管理、ベッドでの動きなどから、健康状態を把握できる。また、扉の開閉から安否確認するなど、老人家庭をモニター、サポートできる。一人暮らしの老人のサポートも容易となろう。
 ところで、スマートメーターというものがある。通信機能付き電力量計のことであり、電力会社が取り組んでいるものである。これから得られるビッグデータを利用し、エヤコンや照明などの制御をして、省エネ、省電力の最適化を可能とする。在宅の有無もわかる。
 スマートハウスの展開の一つといえよう。このシステムを使えば、電力会社は顧客の囲い込みができることにもなろう。スマートハウスの展開の一つであろう。
 経産省は、HEMS( home energy management system.家庭情報基盤整備事業)を主導し、NTT東日本、KDDI、ソフトバンク等がその開発に取り組んでいる。家庭にHEMS を導入すれば、電力データを一元的にクラウドで管理し、データを見える化し、省エネのアドバイスが可能となるのだ。スマートハウス展開・推進のエンジン役の一つになろう。
 電通は、米オーパワー(バージニア州)を買収した。オーパワーは、電力使用量などのビッグデータの分析を活用するビジネスモデルを開発し、電力やガス会社など100 社を顧客としている。また、消費者が電気代金を上手にやりくりする省エネの支援もしている。例えば、夏場の電力使用料からエヤコンの老朽化が判る。さらに、電通が同社を買収することにより、地域の広告配信をサービスの中に取りこんだり、電力ひっ迫時に、空調の整った地域の小売店へ誘導するなども可能となるという。
 スマートハウスの将来は大きいが、展開の方向は多様である。

2) スマートシティはビジネスチャンス!
 スマートシティは、オフィス部分、住居部分、工場部分、学校、病院、文化施設、体育施設などが、互いにネットでつながる近未来都市である。そこでは、インダストリ―4.0が実践される場でもある。
 スマートハウスは住居部分のコンポーネントとなる。そして、ビルや建物のあらゆる箇所にセンサーが設置され、そこから得られるビッグデータを解析し、温度や湿度、照度、風量、エネルギーや水の消費量の最適化を図ることとなる。さらには人の存在や通行量などといった様々なデータを収集・分析してリアルタイムで制御し、ビルや建物の環境や収益性を最適にする。これが、スマートビルであり、スマートシティの核心である。
 発電は、太陽光だけではない。床発電なども活用可能である。イギリスなどでは、結構実用化されているという。人通りの多いビルや駅、通路などに集中的に敷設すれば、実用レベルの発電ができる。さらに、通行量をデータとして取得し解析が可能であり、商業施設などでは、どのエリアの人通りがどの時間帯に多いかなどを把握して事業戦略の立案に役立つ。販売促進のための効果的な情報も、一緒に得られるわけである。
 スマートシティは、さらに、交通信号などを統合的にコントロールする高度交通管理システムや自動運転なのシステムなどと組み合わせることにより、高度な未来都市を実現できることになる。これらのシステムからも、販促情報を得ることができる。ビジネスチャンスは、多様である。
 さらに、次に述べるスマート病院と組み合わせれば、住民の健康管理、老人介護の充実も可能となる。
 さてここで、横浜市の温暖化対策統括本部が主導する横浜スマートシティプロジェクト(YSCP)を見てみよう。まず、太陽光発電の電力をEV(電気自動車)に搭載している蓄電池に充電したり、逆に蓄電池から住宅に電力を供給したりするV2H(ビークル・ツー・ホーム)システムを開発した。これに、CEMS(city energy management system.地域エネルギー・マネジメント・システム)と連携した充電スタンドのEMS(エネルギー・マネジメント・システム)を開発し、EV シェアリングを実証している。さらに、複数の急速充電器と大容量蓄電池を組み合わせたEV 向けの蓄電・充電統合システムの開発に取り組んだ。
 また、複数の蓄電池を集約して仮想的に一つの蓄電池とみなすシステムである蓄電池SCADA を開発するなどして、電気の利用制約を不要とすることを目指しているとのことだ。
 このように、スマートシティのプロジェクトの多くは、太陽光などの再生可能エネルギーを、いかに効果的に使うかを主目的にしているが、YSCPの特徴は、EV(電気自動車)との連携で、大きな可能性を見出すところにあるといえよう。
 ところで、都市インフラの構築に熱心なASEAN諸国は、そのパイロットプロジェクトとして、広大な都市開発を目指しているが、そこをスマートシティとし、超近代都市とすることを狙っている。そこでは、様々形で、インダストリー4.0 の成果を取りいれる努力がなされている。日本はそこで、ビジネスチャンスを得ることができるであろうか。

3)スマート病院とは何か?
 スマート病院は、太陽光で電気を確保し、災害時でも電源を確保できるが、それだけではない。むしろ大事なのは、医療機器、患者、医療スタッフなどがネットで繋がり、遠隔監視や追跡ソリューションなどを駆使して、最適運営・管理を可能とするとともに、最新鋭の機器を、効果的に活用する病院のことである。さらに、他の病院や介護施設と連携することにより、地域医療全体の最適運営・管理を可能とするものだ。インダストリ―4.0では、クラウドと人工知能による統合システムをOSとして、様々アプリを活用することとにより、このような、総合的な最適運営・管理を実現するものである。
 日本だけでなく世界的に高齢化社会を迎えようとしている。高齢者介護や、心臓病、がんなどの慢性疾患に対する医療コストが急増しているため、健康維持や病気の予防、患者のケアのための先進的なアプローチが求められている。
 それ故、病院内の最適運営だけでなく、ビッグデータ分析で予防医学につなげていくことが重要となる。家庭と病院との相互コミュニケーション、見守りなどの生活支援により、より高品質な患者の生活やケアの改善が可能となる。
 患者に腕時計型やバッジ型等のウエアラブル端末を装着してもらうことで、生体指標や行動記録の収集・分析が容易となる。モバイルヘルスと呼ばれるものだ。体温や心拍数、血圧などの生体情報をモニタリングし、ネットワークに繋がる。デバイスからの情報を電子カルテとしてタブレット端末で取得し、患者の情報を高速かつ簡単に共有することができる。
 ここから得られるデータは、医薬品臨床試験の素材として活用されるということも、可能である。医薬、医療機器の効率的な開発をもたらすことも可能となる。
 現在、オランダのフィリップスが、米国、シンガポール、カナダで行っている「術後在宅ケアビジネス」は注目してよい。5%の人間が50%の医療費を使っていると言われるが、その対策の一つとして、術後できるだけ早く帰宅させ、在宅医療に移すことが求められる。
 その代り、術後ケアのデバイスからあがるデータをコールセンターで監視し、異常があれば遠隔医療で医師がケアをする。これにより、医療費を抑えながら的確な患者ケアを可能とした。
 これによりシンガ ポールでは医療費40%削減を実現したという。シンガポールの場合、フィリップスがビジネスを行っている相手は政府である。スマート病院では、政府や自治体を巻き込む、規模の大きなビジネスが必要となっているようだ。

17.日本は2週遅れ!

 日本でIOTや、インダストリー4.0、第四次産業革命という言葉が、経済紙に頻繁に使われだしたのは、2015年にはいってからであろう。ことに、3月のメルケル首相の来日後は、日経新聞や日刊工業新聞の紙面で、IOTやインダストリー4.0の言葉がでない日は無いという状況となった。
 ところが、安部政権は全く興味がなく、アベノミクスの対象外であった。同年6月、政府は「日本再興戦略」を発表したが、生産性向上があるのみで、これらの言葉はなかった。
 しかし、民間はインダストリー4.0一色となり、同年5月、「ロボット革命イニシアティブ協議会」が設立された。6月には、インダストリアル・バリューエイション・イニシアティブ(IVI)が発足した。これには、IHI,NEC,オムロン、パナソニック、トヨタ自動車など20社が参加している。これで、日本もやっと、インダストリー4.0の世界に、足を踏み入れたといえよう。アメリカや独からは、2週遅れの参戦というのが正直な状況であった。
 同年10月、総務省、経産省の旗振りで、「IOT推進コンソーシアム」が設立された。
 会長には、同コンソーシアムの発起人であり「日本のインターネットの父」と称される慶應義塾大学環境情報学部長の村井純氏が就任した。
 コンソーシアムでは、(1)IOT関連技術の開発や実証、標準化を行う「技術開発ワーキンググループ(スマートIOT推進フォーラム)」、(2)ビジネスモデルの創出や規制改革などの検討を行う「先進的モデル事業推進ワーキンググループ(IOT推進ラボ)」、(3)IOTに関わるセキュリティ、プライバシーを考える「専門ワーキンググループ」の3 つを設置している。
 工作機械関連企業のほか、電機メーカーの三菱電機、日立製作所、ITソリューシャン関連では富士通、NEC、メーカーでは、トヨタ自動車、三菱重工が参画している。
 ところが、15年12月発表された政府の補正予算の内容を見ると、経産省関係では、従来からの「ものづくり補助金」で1000億円を投入したのに対し、IOT 関係では、わずか39億円であった。
 年が明けた16年1月25日、政府の産業競争力会議は、第4次産業革命を推進する方針を決定した。これで、政府は本腰を入れてアメリカと独を追撃するかと思ったら、その後、安倍首相の口から、インダストリー4.0の話は、ほとんどでてこない。アベノミクスの3本目の矢の「成長戦略」のなかに、インダストリー4.0は、入っていないのであろう。経産省がやきもきしても、政府はインダストリー4.0には興味がないのだ。

18.中国人はインダストリー4.0のために生まれてきたようなもの!

 インダストリー4.0は、「メーカーがサービス業となる」となるような、まさに「総合格闘技」である。「メーカーがサービス業となる」などといえば、それは、中国の国民性そのものである。彼らは、生来の商人である。
 逆に日本人は、「いいものを作れば売れるはず」と、内輪でコツコツと技術開発に努力する、職人的国民性である。両者はきわめて対照的である。
 米、独に次いでインダストリー4.0をリードする国はどこかと問えば、その答えは中国ということになろう。
 ドイツは歴史的に中国市場に強い関心を抱いている。そのドイツと、「メーカーがサービス業となる」ことが大好きな中国人が、相思相愛の関係で、インダストリー4.0を推進している。
 GEの永久のライバルであるシーメンスは、2007年ころから、中国で情報系の機能強化に力を入れている。11年には、BMWと中国の合弁企業の工場に、1ラインで全車種を製造できる、多品種少量生産を現実化する工場を納入した。13年には、成都(四川省)に、スマート工場を建設した。これらは、シーメンスの多品種少量生産のパイロット版という位置づけのようだ。
 メルケル首相が、インダストリー4.0を打ち出したのは、11年11月であるが、それよりも前から、シーメンスは、それを実行していたのだ。そのメルケル首相は、毎年のように中国を訪問している。そして、14年7月には、習近平国家主席との間で、インダストリー4.0の協力文書を取り交わしている。同首相は、「米国の準備の整わないうちに、中国の巨大市場を獲得する。その手段は、標準化だ」と、常々公言しているのだ。
 15年3月のメルケル首相の初訪日は、彼女の7回目の訪中の帰国途中、ちょっとだけ、日本に立ち寄ったものだった。
 とはいえ、これが日本にとり大きなインパクトとなり、インダストリー4.0 の大合唱の契機となったことは前述した。
 CeBITといえば、ハノーバーで毎年開催される世界最大級のコンピュータエキスポである。15 年4 月、そこで、中国をパートナー国に選んだ。メルケル首相は、「ドイツと中国の協力が世界のリードする」と演説し、これを受け、李克強首相がビデオ出演し、「中国にもインダストリー4.0を展開したい」と答え、蜜月ぶりを演出した。まさに官民あげて、独は、中国でインダストリー4.0を実現しようとしているのだ。
 ここで、中国の実情を見るため、車の「自動運転」を見てみよう。15 年6 月、中国の検索エンジンの雄であるBaiduは、BMWと共同開発の提携をし、12 月には試験走行開始した。実は、10 年から長安自動車は自動運転の開発をしていたが、このとき、このBaiduと提携し、一緒に実証段階に入っている。中独連合は、20 年には、中国マーケットで、「自動運転」の展開を開始するとのことだ。
 さらに注目すべきことがある。それは、中国のベンチャー力である。15年のベンチャーキャピトルのベンチャーへの投資額は、米国は約7兆であったが、中国も2,4兆ある。
 ちなみに日本は、わずか1200億円である。近い将来、中国深センにある深センハイテクパークは、シリコンアレーに肉薄する存在となろうが、「自前主義」に固執している日本は、抜本的な手を打たない限り、10 年後には先端技術でも中国に逆転されるはずだ。
 スマホは、「技術の70%は日本だが利益の90%はアップル」といわれた。日本は、自己改革をしないと、インダストリー4.0でも、「部品の70%は日本製で、利益の90%は米、独、中が分け合う」となってしまうであろう。もっと厳しい目で見れば、部品も、日本製は出番場なくなるという事態も考えられる。
 ドイツについては、更に気になる動きがある。それは、インドに対するものだ。
 15 年のCeBITでは、実はインドもパートナー国に選んでいる。そして、モディ首相自らエキスポに参加し、メルケル首相と会場を一緒に歩いている。さらに同年11月、メルケル首相は訪印し、幅広い投資の覚書を取り交わしている。インドにも、近い将来、シーメンスのスマート工場が建設されるのではなかろうか。

19.アメリカと独の連合が成立

 今春、実に衝撃的な出来事がった。15年4月のハノーバーメッセ(CeBIT)で、独と中国の親密ぶりが際だったが、16年4月25日からスタートした今年のハノーバーメッセに、米国のオバマ大統領が出席し、メルケル首相と会見して、提携を宣言したことだ。
 これに先立ち、16年3月上旬、実務者レベルであるが、米中はチューリッヒで、規格標準化へ向け協調することで合意していた。そして、このトップ会談をうけ、ドイツのインダストリー4.0コンソルシアムと、IIC(The Industrial Internet Consortium)が提携し、標準化への工程表や見取り図を互いに持ち寄るという合意が成立したのだ。
 これは、独と米国が、サービス業と製造業全般を支配する標準、つまりクラウド上のOSが、両国に牛耳られ、それに中国が加わることで、日本の製造業は、部品製造だけの二級国家になることを意味するのだ。
 これから、1ヶ月後、伊勢志摩サミットが開かれた。安倍首相は、リーマンショック前夜の危機的状態にあると財政出動を提案したが、メルケル首相から、「財政出動は負担を次世代に送るだけ。構造改革が先よ」と一蹴されてしまった。
 この1ヶ月前の、ハノーバーの重要性は、野党の政治家も全く理解していないようだ。
 日本の最大の悲劇は、無能な政治家しかもてないことであろう。

20.トヨタが下請けになる日

 インダストリー4.0 とは、トヨタが下請けになる革命である。まさかと思う人は、まだインダストリー4.0 を理解していない。
 2025 年の、ある運送会社A社を想定してもらおう。A社は、完全自動運転の電気自動車のトラックを発注することとした。同社の運行状況からすると、一回の輸送距離は300 キロ以下なのでバッテリーは中型でよい。また、モーターや基本構造は、積載量は5トンから7トンに対応するものでよい。 顧客の構内無人運送器と対応したタイプが必要。スタイルと塗装は、会社のブランドイメージに合うもの、ということになる。
 購入者は、仮想空間で完成状況を確かめながら、最適な車をイメージできる。
 自動販売会社Bは、この要求に対応するモジュールを選択するとともに、自動運転は独コンチネンのeHorizon グループと、ドイツHERE の地図を活用する自動運転システムを推薦し、A社から最終的な受注を得た。これを、トヨタのような自動車の完成品メーカーに発注する。自動車メーカーは、カスタマイズに対応できるよう、多品種少量生産を可能とする生産ラインが必要となる。
 今の自動車は、エンジンで走るので構造は複雑であり、部品点数は1 台で2 万から3 万点はあるという。しかし、電気自動車は、100 から200 のモジュールの組み合わせで製造可能である。モジュールの組み合わせ方で製造できるので、主役は、販売会社と部品メーカーである。逆に、従来の車メーカーは、組み立てるだけの下請けとなろう。
 しかも、性能の核心は自動運転のシステムである。これは、ソフトのダウンロードで、常に、性能向上を図ることができる。
 しかも、自動車はインターネットとつながり、トラックの運行も、クラウドとAIで最適管理ができる。そして、部品の老朽化は、センサーからくるビッグデータを解析することで、事前に把握できる。故障する前に部品を交換すれば、故障を最小化できるのだ。
 もはや、性能向上のために、買い替えるということもなくなる。
 このように、車の製造も、販売方法も、インダストリー4.0 の中では、革命的に変わることとなる。車は、インターネットとつながった、走るデバイスとなる。トヨタは、このデバイス部分のみを担当する下請け企業となるのだ。

21.日本メーカーは自動車の総需要縮小に対応できるか?

 自動運転とライド・シェアリングで、車の需要は40%減ると言われる。かつ、電気自動車の時代となると、すでに登場しているテスラだけでなく、アップルを始め多数の新たなプレイヤーが参入してくるはずである。電気自動車は、新規参入しやすいようだ。
 現に電動バイクの世界では、ホンダやヤマハを押しのけるように、中国のベンチャー企業が、雨後のタケノコの如く参入してきている。バイクと自動車では部費の点数がけた違いで、比較できないという声が出そうであるが、製造のモジュラー化が進む中で、中国からベンチャーによる参入は、覚悟しなければならないであろう。
 従来のクルマ関連メーカーは、イノベーションに迫られているだけでなく、市場の急速な縮小に備えなければならない。それに失敗すると、日本のエレクトロニクスの二の舞となるであろう。
 GMは、16年1月、カーシェアリングに進出すると発表した。車業界の将来を見越して、逆張りの多角化というところであろう。Uberと競合するLiftとSidecarへ出資したのだ。Liftの設立は09 年だが、すでに年間売上6 兆円という。車メーカーの経営資源の移転先としては、充分な規模がある分野である。
 フォードは、11 年から、米カーシェア大手のジップカーと提携し、学生向けカーシェア車両の最大供給者となっていた。自社でも、乗合仲介サービスを開発中しているという。
 ドイツでも同じ動きがみられる。ダイムラーは、サ−ビス産業を起こし、総合モビリティ企業を目指しているようだ。カーシェア、駐車場シェア、タクシー配車サービス等の子会社を設立し、長距離バス、ドイツ鉄道、リムジン送迎、レンタカー、自動車シェアなどに進出することを目指している。
 米、独メーカーは、すでに、経営資源をカーサービスの分野に移転することに着手している。日本の自動車メーカーで、このような対抗策に取り組んでいる企業はあるのだろうか。
 そもそも日本では、国交省とタクシー業界が、Uberを「白タク」扱いして追い出してしまった。経営資源を移すべきライドシェアの分野が、日本には存在しないことになってしまった。日本の自動車業界の将来が、なんとも心配である。
 さて、ここで、一つ気になる点がある。ドイツのコンチネンタルや、グーグル、アップルなどのアメリカ企業は完全自動運転(クラス4.つまり、ドライバーが不要とするレベル)を求めている。ところが、日本の自動車メーカーの主流は、「ドライバーの運転する楽しみを奪わない」ということで、ドライバーが座っていることを前提としたクラス3(ドライバーが緊急時等に運転を代わる)の自動運転を目指してきた。
 トラックやバスやタクシーなどの商業車、あるいはUberやLiftシェなどのシェアライドでは、運転する楽しみは追及しない。クラス4 が目標のはずだ。
 自家用車では、確かに運転する楽しみは尊重されるべきであろう。ただ、運転を楽しむ層がどのくらいあるかである。
 若者の車離れは、先進国の共通の現象のようだ。彼らは、運転すること自体に興味がない。車の需要の大勢は、完全自動運転を必要とすることになるのではなかろうか。この点を読み誤ると、自動運転の土俵にも乗れないこととなる。

22.インダストリー4.0 で部品メーカーは半減する!

 インダストリー4.0 での競争は、カスタマイズ化と納期の短縮、開発期間の短縮を目指している。そのためには、IOT対応だけでなく、モジュラー化が必須である。
 さらに、GEが目指しているように、3Dプリンターを高度化し、溶接個所を5 分の1にして耐久力を5 倍とするような部品点数の圧縮という競争が、インダストリー4.0 の核心である。これにより、製造期間も短縮できる。
 これは、部品業者が下請け根性を捨てて自立するとともに、部品業者同士、あるいは、部品業者とIT業者が提携ないし統合することが、強く求められている。
 これらが実現すれば、日本の部品メーカーは半減するはずである。時代に乗り遅れたものは、淘汰されるはずだ。インダストリー4.0 は、まさに、「総合格闘技」の世界である。
 メーカー半減となれば、社会的なインパクトは甚大である。政治的にも対策が必要なはずだが、その気配は全くない。

23.日本のインダストリー4.0 はサービス産業がけん引するのか?

 インダストリー4.0 は、製造業だけでなく、サービス業も揺り動かすものである。しかし、日本では、製造業よりサービス産業のほうが、反応は早そうだ。「いいものを作れば売れるはず」というようなコダワリがなく、顧客の需要に直接接することができるからだ。
 フィンテックについては、日本の多数の銀行で、すでに研究に入っている。三菱東京UFJ銀行は、来年にはビットコインで、海外送金を実現するようだ。
 小売り量販店では、顧客の微細な行動のビッグデータをAIで分析し、また、天候やイベント、競争相手の新製品の売れ行き状況などの情報も組み入れて、最適管理を実現し、さらに新製品の開発に活用するようなシステムの開発が進んでいる。
 また、ペッパー君のようなサービスロボットが、店頭で実証を開始している。
 アパレルでも、自分の画像を見ながら、ディスプレイで100〜200回の試着を可能とするようなシステムが実用化されている。これらが多品種少量生産の生産ラインとつながれば、まさに、インダストリー4.0 である。
 神奈川県の藤沢市で、自動運転のタクシーの実証実験、千葉では、ドローンによる宅配の実証実験が行われている。これらは、IT企業とサービス業の連携であり、製造業の影は薄い。
 インダストリー4.0 は、日本では、サービス業からメーカーに提案するような構図が、成果を上げると思われえる。


M&A・事業再生の弁護士-金子・福山法律事務所