(1)株式買い取りが原則
M&AのM部分はmergerであり、合併の意味である。ただ、中小企業のM&Aでは、合併の利用例は少ない。多いのは、株式を買い取って子会社化する株式の買取り方式である。
多用される最大理由は、手続きが簡略だからである。株式を、株主から、買い取るだけで済むからである。税金も、買い手に20%の譲渡税がかかるだけで、シンプルである。
また、合併だと、負債や損害賠償リスクなども承継してしまうので、倒産隔離ができる株式買取り方式が好まれる。子会社が倒産しても、親会社は倒産を免れるからである。さらに合併では、手続きが面倒なだけでなく、後述する税法適格となれない場合だと、評価換えによる課税関係が発生するので、その点からも避けられるのである。
ただ、株式買い取りの場合、100%買い取れるとは限らない。第一段階として、3分の2を取得することで、満足することも多い。3分の2を取得できれば、特別決議で勝てるので、一方的な定款変更等が可能となり、支配権を確保できるからだ。
残った少数株主の株式を強制的に取得するには、全部取得条件付き種類株式を使う方法(スクイーズアウト)があるが、その点は後述する。
また、3分の2以上の賛成を獲得できれば、後述する会社法上の株式交換の手段が使える。反対者には現金を交付すればよいのである。ただし、税法不適格となるので、どのくらい課税されることになるか、シュミレーションした上で、最も合理的な方法を選ぶべきである。税法上の適格性については、後述する。
株主全員が賛成すれば、株式買い取りでホールディングカンパニーの形成も可能である。反対者がいても3分の2の賛成が得られれば、後述の通り、会社法上の株式移転で、ホールディングカンパニーが可能となる。
(2)株式交換による完全子会社化
M&A反対者がいてターゲット会社の株式を全部買い取れないが3分の2以上の株主が賛成している時には、会社法上の株式交換という制度を使うと効果的である。ターゲット会社での株主総会の特別決議により、その会社の株式を自社の株式と交換してしまえば、ターゲット会社の株主が自社の株主に成る代わりに、ターゲットは完全子会社になる。これにより買収完了となる。
反対の少数株主は、株式買取請求権を行使して離脱することができる。しかし、株式買取請求をしないと親会社に関係ない子会社の株主が入りこむので、株式に譲渡制限がある閉鎖会社では好まれないことも多い。もっとも、交換の対価として金銭も可能なので、株式の代わりに金銭を交付する場合にはよそ者を排除できるが、税法上不適格株式交換となり、課税関係が発生してしまうので、使いにくい手法である。
株式買い取りの資金がすぐ調達できない時にも、この株式交換を使うことも多い。閉鎖会社でも、子会社の株主が入りこむことを覚悟して、この手段を使うのである。
この場合、資金が用意出来たところで株式を買い取ればいいのである。買い取り時に反対株主が出現しそうな時には、あらかじめ、全部取得条項付種類株式を交付し、資金ができた時に特別決議で買い取るという手法を使うこともある。後述のスクウィーズアウトと言われるもので、これにより、確実に少数株主の株式を買い取ることが可能となる。
この買い取りで、ターゲット会社のオーナーは、創業者利益を確保できることにもなる。
中堅企業で公開会社になっているところは、手続きが公明正大となるのでこの株式交換を積極的に活用していいであろう。
また株式交換は、株式の買い取りに抵抗感のないグループ内再編では、完全子会社化を目指す時利用されることが多い手法である。
<実例>
山陰地方のM漁港地域の水産加工業は安価な中国産に押されて売り上げがじり貧状況となってきた。地元の商工会議所は、企業数を整理して生き残りを図る方針を決め、より強い企業が弱い企業を買い取ることをすすめてきたが、買い取る企業も買い取り資金を確保するのは困難なところが多かった。そこで、株式交換の方法で、買収対象企業の株主は、その株式を買収企業の自己株式と交換してもらって、一旦買収企業の株主になり、3−4年かけて、ゆっくりと買収側の企業の株主に、株式を買ってもらうというスキームを考案し、会員企業に奨励することとした。
同時に、買収対象企業と買収企業は、従業員をゆっくり整理し、生産設備を集約して、生き残れる足腰の強い企業体質を構築し、最後は合併して集約化を実現していった。
(3)ホールディングカンパニーの活用
ホールディングカンパニー、つまり、持ち株会社いうと、大企業のための制度と思いがちであるが、必ずしもそうではない。中小企業でも活用できるし、活用すべきものである。
合併や企業分割による統合をしたばあい、コンピューターシステムの違い、商品アイテムの違い、経営指針や社風の違いで混乱が生じ、統合効果が上がらないことも多い。この様な時、無理して統合せず、ホールディングカンパニーを作り、各社がホールディングカンパニーの完全子会社となるのが合理的なスキームである。
株式を全部買い取れれば、株式買い取りの方法でホールディングカンパニーの完全子会社に成り、手続は容易である。
一部の株主に反対があるという時には、会社法上の株式移転という手法を使う。この場合、ターゲット会社の株主総会で特別決議(反対株主は、株式買い取り請求権を持つ)を得て、株主とターゲット会社の間に持ち株会社が入る、つまり、当の会社の株主がホールディングカンパニーに移転し、ホールディングカンパニーの株式を持つこととなる。同時に、ホールディングカンパニーがターゲット会社の株主になり、ターゲット会社は、ホールディングカンパニーの完全子会社になる。
買収者側に資金がない時にも、この株主移転は効果的である。ターゲット会社の株主に、とりあえずホールディングカンパニーの株主になってもらって、資金が出来た時に、買い取ることになる。買い取り時に反対株主が出現しそうな時には、あらかじめ、全部取得条項付種類株式を交付し、資金ができた時に特別決議で買い取るという手法を使うこともある。後述のスクウィーズアウトと言われるもので、これにより、確実に少数株主の株式を買い取ることが可能となる。
ターゲット会社の株主に、ホールディングカンパニーの株式の代わりに、金銭その他の財産を付与してもよいが、株式交換の時と同じく税法不適格となり、ターゲット会社に課税関係が発生してしまう。
ターゲット会社の株主は、株式を買い取ってもらった時に、創業者利益を回収することになる。
この株式移転により合併までしなくても、共同仕入れ、在庫管理の共同化、店舗を整理し過当競争の排除、連携による相乗効果などの利益を享受できることとなるので、合理的な制度である。
<実例>
Aは、居酒屋チェーンを経営している若き実業家である。次々と、中小の外食チェーンを買収したが、それぞれのブランドはそのまま維持して傘下に収めていた。その手法は、ホールディングカンパニー方式を採用していた。
それぞれのチェーンの固定客を維持するのは、表面的には、オーナーがチェンジしたことが判らないようにするが、仕入れや、人材は可能な限り、共通化することが狙いであった。
(4)第三者割当増資も効果的
株主の中にM&Aについて反対者がいて株式の売却に応じないときには、買い手側が支配権を得るため、第三者割当増資をすることもありうる。
授権資本株式の範囲内では、有利発行でない限り、取締役会の決議で新株の発行が可能である。株主の過半数をM&A支持派が占め、取締役の人事権を握っている限り、この手法が効果を上げることとなる。
第三者割当増資は、M&Aと同時に、資本増強をして会社のテコ入れをする必要がある時にもつかわれるものである。
|