事業継承

3 株価減価の対策はどうしたらよいか

優良企業は株価が高くなる。しかし、皮肉なことに株価が高すぎることは、相続対策を難しくする。承継者だけが相続財産を独り占めしたといわれてしまうからである。
そこで、株価を下げることが重要となるので、以下でその方法を検討する。
非上場株式の評価

(1)借り入れと不動産等購入
借り入れし、資産を購入する。購入資産が、借入残よりも小さく評価されると、株価を下げられる。
不動産投資は伝統的に活用されている。土地は路線価、建物は固定資産評価で評価されるので、多くの場合、時価より低額となるからである。
路線価は、多くの場合時価の7―8割、固定資産価格は建築資金の6割位に評価されるからである。
なお、中古建物の場合、固定資産評価額のほうが高いということもあるので、注意を要する。
(2)自己株式購入
  1. 会社が自己株式を購入すると現金が流失して企業価値を下げるので、株価を下げる事ができる。
  2. 会社が株式を合意で買い取る場合は(会社法156条)。総会で特別決議を得る必要がある(当人は、議決権はない)。
  3. 売却代金のうち、利益積立の部分に対応する金額は、原則として配当として総合課税となる(最高50%)ことも忘れないでほしい。
(3)従業員持株会の利用
  1. オーナー株を、従業員持ち株会に放出する方法も効果的である。この時は、従業員側の価格は配当還元価格でよいので(持株会は支配権がないからである)、オーナーの負担は楽である。
    持株会に譲渡する株式は、議決権制限株式とするのが普通である。
  2. 持株会は民法上の組合なので、配当は個人の配当所得となる。なお、50名を超えると、金商法上の届け出が必要になることを忘れないでほしい。
    会社による買い戻しには、持株会側にとって、買戻価格と配当還元価格との差額が贈与となるので注意を要する。
(4)中小企業投資育成会社の利用
  1. 中小企業投資育成株式会社法に基づく投資事業有限責任組合を通じて、投資を受け、承継すべき株価を希釈するという方法がある。投資は、株式の引き受け、新株引受権付社債を利用する。
    同時に、投資金により設備投資などが可能となり、一石二鳥ということにもなる。
  2. 利用できる企業には、業種の制限はなく、資本金3億円以下の株式会社で、高い成長性が期待でき、設立後7年以内の会社である。
    株式評価方法が、財産評価基本通達での原則的評価よりも、通常はかなり低いので、資金金調達と株価引き下げに効果的なのである。

    株式評価=人株当たりの予想純利益×配当性向÷期待利回り

    また、単独では同族とは判定されないし、単独では中心的な同族株主とは判断されないので、同族判定されて困ることも無い。
(5)特定同族会社株式の評価減
  1. 一定の要件で特定同族会社と評価されると、10%の評価減を得られる。ただし、軽減の上限は1億円までである。また、適用されるのは、特定同族会社の株式等の価格の合計額のうち10億円に達するまでの部分である。
    適用者は被相続人の親族である役員で、株式総数又は総額の株式の5%以上を有す者である。
  2. 対象株式は、議決権の制限のない未上場株式で、被相続人とその特別関係者で発行済み株式総数の2分の1を超えて所有していることが必要である。
    対象株式の時価総額は20億円未満であり、発行株式総数の3分の2までの部分である。
  3. 他の手続き条件としては、申告期限から3年以内に分割されること、この特例の選択について相続人全員の同意を得ていること、相続開始から相続税の申告期限まで株式を保有していることが必要である。
*相続時精算課税制度との併用が可能。
小規模宅地等についての相続税の課税とは選択的課税となる。

非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予に関するQ&A
(6)小規模宅地の評価減
一定の小規模宅地について、評価減を得ることができる。以下は、国税庁のホームページの解説をベースに説明する。
  1. 特例の概要
    個人が、相続又は遺贈により取得した財産のうち、その相続の開始の直前において被相続人等の事業の用に供されていた宅地等又は被相続人等の居住の用に供されていた宅地等のうち、一定の選択をしたもので限度面積までの部分(以下「小規模宅地等」といいます)については、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、一定の割合を減額します。この特例を小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例という。
    なお、相続開始前3年以内に贈与により取得した宅地等や相続時精算課税に係る贈与により取得した宅地等については、この特例の適用を受けることはできない。
    (注)1.被相続人等とは、被相続人又は被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族をいう。
    2.宅地等とは、土地又は土地の上に存する権利で、一定の建物又は構築物の敷地の用に供されているものをいう。
     ただし、棚卸資産及びこれに準ずる資産に該当しないものに限られる。
    *特定同族会社株式の評価減とは選択的適用となる。

  2. 減額される割合等

    平成22年4月1日以後に相続の開始のあった被相続人に係る相続税について、小規模宅地等については、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、次の表に掲げる区分ごとに一定の割合を減額する。

    相続開始の直前における宅地等の利用区分

    要件

    限度面積

    減額される割合

    被相続人等の事業の用に供されていた宅地等

    貸付事業以外の事業用の宅地等

    @

    特定事業用宅地等に該当する宅地等

    400u

    80%

    貸付事業用の宅地等

    一定の法人に貸し付けられ、その法人の事業
    (貸付事業を除く)用の宅地等

    A

    特定同族会社事業用宅地等に該当する宅地等

    400u

    80%

    B

    貸付事業用宅地等に該当する宅地等

    200u

    50%

    一定の法人に貸し付けられ
    その法人の貸付事業用の宅地等

    C

    貸付事業用宅地等に該当する宅地等

    200u

    50%

    被相続人等の貸付事業用の宅地等

    D

    貸付事業用宅地等に該当する宅地等

    200u

    50%

    被相続人等の居住の用に供されていた宅地等

    E

    特定居住用宅地等に該当する宅地等

    240u

    80%

    (注)
    1 「貸付事業」とは、「不動産貸付業」、「駐車場業」、「自転車駐車場業」及び事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行う「準事業」をいう(以下同じ)。 2 「限度面積」については、「特定事業用宅地等」、「特定同族会社事業用宅地等」、「特定居住用宅地等」及び「貸付事業用宅地等」のうちいずれか2以上についてこの特例の適用を受けようとする場合は、次の算式を満たす面積がそれぞれの宅地等の限度面積になる。
    A+(B×5/3)+(C×2)≦400
     A:「特定事業用宅地等」、「特定同族会社事業用宅地等」の面積の合計(@+A)
     B:「特定居住用宅地等」の面積の合計(E)
     C:「貸付事業用宅地等」の面積の合計(B+C+D)

  3. 特例の対象となる宅地等
    この特例は、特定事業用宅地等、特定居住用宅地等、特定同族会社事業用宅地等及び貸付事業用宅地等のいずれかに該当する宅地等であることが必要。

    <特定事業用宅地等>

    相続開始の直前において被相続人等の事業(貸付事業を除きます。以下同じ)の用に供されていた宅地等で、次の表の区分に応じ、それぞれに掲げる要件の全てに該当する被相続人の親族が相続又は遺贈により取得したものをいう(次の表の区分に応じ、それぞれに掲げる要件の全てに該当する部分で、それぞれの要件に該当する被相続人の親族が相続又は遺贈により取得した持分の割合に応ずる部分に限られる)。

    ○特定事業用宅地等の要件

    区分

    特例の適用要件

    被相続人の事業の用に
    供されていた宅地等

    事業承継要件

    その宅地等の上で営まれていた被相続人の事業を相続税の申告期限までに引き継ぎ、かつ、その申告期限までその事業を営んでいること。

    保有継続要件

    その宅地等を相続税の申告期限まで有していること。

    被相続人と生計を一にしていた
    被相続人の親族の事業の用に
    供されていた宅地等

    事業継続要件

    相続開始の直前から相続税の申告期限まで、その宅地等の上で事業を営んでいること。

    保有継続要件

    その宅地等を相続税の申告期限まで有していること。


    <特定居住用宅地等>

    相続開始の直前において被相続人等の居住の用に供されていた宅地等で、次の区分に応じ、それぞれに掲げる要件に該当する被相続人の親族が相続又は遺贈により取得したものをいう(次表の区分に応じ、それぞれに掲げる要件に該当する部分で、それぞれの要件に該当する被相続人の親族が相続又は遺贈により取得した持分の割合に応ずる部分に限られます)。なお、その宅地等が2以上ある場合には、主としてその居住の用に供していた一の宅地等に限る。

    ○特定居住用宅地等の要件

    区分

    特例の適用要件

    取得者

    取得者等ごとの要件

    被相続人の居住の用に
    供されていた宅地等

    被相続人の配偶者

    「取得者ごとの要件」は無い。

    被相続人と同居していた親族

    相続開始の時から相続税の申告期限まで、引き続きその家屋に居住し、かつ、その宅地等を相続税の申告期限まで有している人

    被相続人と同居していない親族

    @及びAに該当する場合で、かつ、次のBからDまでの要件を満たす人
    @ 被相続人に配偶者がいないこと A 被相続人に相続開始の直前においてその被相続人の居住の用に供されていた家屋に居住していた親族で相続人(相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合の相続人)がいないこと。 B 相続開始前3年以内に日本国内にある自己又は自己の配偶者の所有する家屋(相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋を除く)に居住したことがないこと。 C その宅地等を相続税の申告期限まで有していること。 D 相続開始の時に日本国内に住所を有していること、又は、日本国籍を有していること。

    被相続人と生計を一にする
    被相続人の親族の居住の用に
    供されていた宅地等

    被相続人の配偶者

    「取得者ごとの要件」はない。

    被相続人と生計を一にしていた親族

    相続開始の直前から相続税の申告期限まで引き続きその家屋に居住し、かつ、その宅地等を相続税の申告期限まで有している人


    <特定同族会社事業用宅地等>

    相続開始の直前から相続税の申告期限まで一定の法人の事業(貸付事業を除く。以下同じ)の用に供されていた宅地等で、次表の要件の全てに該当する被相続人の親族が相続又は遺贈により取得したものをいう(一定の法人の事業の用に供されている部分で、次表に掲げる要件の全てに該当する被相続人の親族が相続又は遺贈により取得した持分の割合に応ずる部分に限られる)。
    なお、一定の法人とは、相続開始の直前において被相続人及び被相続人の親族等が法人の発行済株式の総数又は出資の総額の50%超を有している場合におけるその法人(相続税の申告期限において清算中の法人を除く)をいう。

    ○特定同族会社事業用宅地等

    区分

    特例の適用要件

    一定の法人の事業の用に
    供されていた宅地等

    法人役員要件

    相続税の申告期限においてその法人の役員(法人税法第2条第15号に規定する役員(清算人を除く)をいう)であること。

    保有継続要件

    その宅地等を相続税の申告期限まで有していること。


    <貸付事業用宅地等>

    相続開始の直前において被相続人等の貸付事業の用に供されていた宅地等で、次表の区分に応じ、それぞれに掲げる要件の全てに該当する被相続人の親族が相続又は遺贈により取得したものをいう(次表の区分に応じ、それぞれに掲げる要件の全てに該当する部分で、それぞれの要件に該当する被相続人の親族が相続又は遺贈により取得した持分の割合に応ずる部分に限られる)。

    ○貸付事業用宅地等の要件

    区分

    特例の適用要件

    被相続人の貸付事業の用に
    供されていた宅地等

    事業承継要件

    その宅地等に係る被相続人の貸付事業を相続税の申告期限までに引き継ぎ、かつ、その申告期限までその貸付事業を行っていること。

    保有継続要件

    その宅地等を相続税の申告期限まで有していること。

    被相続人と生計を一にしていた
    被相続人の親族の貸付事業の用に
    供されていた宅地等

    事業継続要件

    相続開始の直前から相続税の申告期限まで、その宅地等に係る貸付事業を行っていること。

    保有継続要件

    その宅地等を相続税の申告期限まで有していること。

(7)広大地の評価減
利用に制約のある一定の広大な土地について、評価減を得ることができる。大規模工場用地の適地、あるいは中高層の集合住宅等の敷地用地に適しているものは、有効利用が可能なので、評価減はない。
広大地の評価
  1. 広大地とは、その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地で、都市計画法第4条第12項に規定する開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるものをいう。ただし、大規模工場用地に該当するもの及び中高層の集合住宅等の敷地用地に適しているものは除かれる。
    (イ)市街化区域
    三大都市圏・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 500u以上
    それ以外の地域 ・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1,000u以上
    (ロ)非線引き都市計画区域及び準都市計画区域・・・・・・・・ 3,000u以上
  2. 広大地の価額は、次に掲げる区分に従い、それぞれ次により計算した金額によって評価する。
    @ 広大地が路線価地域に所在する場合
    広大地の価額=広大地の面する路線の路線価×広大地補正率×地積
    広大地補正率=0.6−0.05×広大地の地積÷1,000u
    A 広大地が倍率地域に所在する場合
    その広大地が標準的な間口距離及び奥行距離を有する宅地であるとした場合の1u当たりの価額を、上記(1)の算式における「広大地の面する路線の路線価」に置き換えて計算する。
(8)業種転換により類似業種株価の低いところに業種変更
類似業種株価の低いところに業種変更すれば、株価の評価を下げることができる。
経済環境の激変の中でコア事業の変更を考えている企業は、いいチャンスになるはずである。
(9)企業再編(会社分割、ホールディングカンパニーなどの活用)により利益分散
会社分割、ホールディングカンパニーなどを利用して企業再編すれば、利益は分散可能である。
機動的に対処すれば、企業の発展に寄与するという一石二鳥となりうるものである。
(10)合法的利益繰り延べ
例えば、生命保険がありうる。保険料を損金で落として節税し、数年後に簿外に貯めた含み資産(解約返戻金)を現実化できる(この時、退職金で利益を消化することもできる)。
(11)金融商品(保険等)の活用、退職金や決算賞与により利益を繰り延べ、あるいは放出
  1. 保険の場合、保険料支払いにより利益を放出することができる。保険料は損金となるが、将来の解約返戻金があるので、利益の繰り延べでもある。退職金を払う時に、解約返戻金を受け取るということも可能である。
  2. 利益が大きいときには、退職金を払うというのがよく使われる手法である。この時、利益は放出されるが、次のような欠点があるので注意を要する。
    @ 会社から現金が流出することで、会社の財務力が低下する。
    A 分離課税だが、高額な所得税を払うことになる。
    B 退職金として支給した現金は相続財産に含まれてしまう。
退職金の計算
(12)過小資本の回避
内部留保により払込資本に比べ剰余金が多いと株価が高くなる。
そのため、普段から、適正報酬、適正配当で内部留保をしないことにより、株価を下げることは重要である。
(13)身内へ増資
  1. 第三者割当増資をして、新株式をオーナーの妻や子供も所有させ、オーナーの株式を希釈化することができる。それにより、生前贈与と同様の効果を生じさせることとなる。
  2. ただし株式が分散するので、次世代にM&Aで売却を想定しているなど、将来の構想を練ったうえで実行すべきである。
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