事業継承

2 他の相続人に対する対策はどうしたらよいか
(1)遺言の活用とその限界
  1. 経営承継にあたって、遺言により、後継者に株式が全部相続されるように書いておけば、相続人の争いを防止し、円滑に承継できると思っている者が多い。しかし、他の兄弟の相続人には、法定相続分の2分の1の遺留分があり、この遺留分が侵害されていると、遺留分の減殺請求を受けてしまい、結局、他の相続人も株式を持つこととなり、円滑な承継ができないこととなる。
  2. 遺留分の生前における放棄は、家庭判所の許可がいるので、事前放棄では、解決が困難である。
    遺言で解決できるのは、他の相続人の遺留分の手当てができている場合だけである。
    遺留分資金が不足すると、遺留分減殺請求を受けて、株式を割譲しなければないこととなる。
    そのため、遺留分の処理を生前に解決するためには、後述の経営承継円滑化法の活用を考えるのも一方法である。
  3. 遺言で一代飛び越しの相続をさせる場合は、2割加算され最高税率60%となることにも注意が必要である。
(2)寄与分の主張は遺産争いのもと
  1. 後継者は、専務とか常務との肩書きで、父である社長を支援し、事業を支援しているはずである。となると、今の会社があるのも、自分の貢献があってこそと自負していることが多い。株価の相当部分は、自分の貢献が寄与していると信じ、相続となると寄与分を主張することになる(民法904条の2)。
    しかし、他の相続人はそのような貢献を評価していないことがしばしばある。仮に評価しても、役員報酬で十分に賄われていたはずで、別個に寄与分などあるはずはないと主張することが多く、深刻な相続争いになることも稀ではない。
  2. 一般の相続争いでも、寄与分の立証は困難なことが多く、相続争いを深刻なものにしかねないものである。そこで、このことも想定して、父たる社長の元気なうちに対策を立てておくべきである。
(3)生前贈与の利用について
  1. 生前に、承継者に株式を贈与すれば解決であるが、実際は、贈与税を払う必要があり、簡単にはできない。
    相続税と贈与税は、税率は同じだが最高税率50%が相続税なら3億円超えなのに、贈与税では1000万円超えとなるなど、贈与税は負担が大きい。
    ただ、贈与税の基礎控除は110万円あり、少額ずつ毎年継続して贈与して解決すのであれば、効果的である。
  2. 死因贈与にすれば、相続税課税となるので、贈与税は避けることができる。
  3. 贈与を考える場合、「相続時精算課税制度」を使えると、贈与も強力な解決手段となる(詳細は、次に述べる)。
(4)相続時精算課税制度の利用
  1. 制度の概要
    贈与税の課税制度には、「暦年課税」「相続時精算課税」の2つがあり、一定の要件に該当する場合には、相続時精算課税を選択することができる。
    この制度は、贈与時に贈与財産に対する贈与税を納め、その贈与者が亡くなった時にその贈与財産の贈与時の価額と相続財産の価額とを合計した金額を基に計算した相続税額から、既に納めたその贈与税相当額を控除することにより贈与税・相続税を通じた納税を行うものである。
    相続時精算課税の選択
    *特定同族会社株式の評価減とは併用可。

  2. 適用対象者
    贈与者は65歳以上の親、受贈者は贈与者の推定相続人である20歳以上の子(子が亡くなっているときには20歳以上の孫を含む)とされている(年齢は贈与の年の1月1日現在のもの)。
    *法改正により、平成27年1月1日以降の贈与から贈与者は60歳以上となり、受贈者には孫も含まれる。

  3. 適用対象財産等
    贈与財産の種類、金額、贈与回数に制限はない。

  4. 税額の計算
    @ 贈与税額の計算
    相続時精算課税の適用を受ける贈与財産については、その選択をした年以後、相続時精算課税に係る贈与者以外の者からの贈与財産と区分して、その贈与者(親)から1年間に贈与を受けた財産の価額の合計額を基に贈与税額を計算する。
    その贈与税の額は、贈与財産の価額の合計額から、複数年にわたり利用できる特別控除額(限度額:2,500万円。ただし、前年以前において既にこの特別控除額を控除している場合は、残額が限度額となる)を控除した後の金額に、一律20%の税率を乗じて算出する。
    なお、他の者らの贈与については適用が無く、その贈与財産の価額の合計額から暦年課税の基礎控除額110万円を控除し、通常の税率を適用し贈与税額を計算する。
    (注)相続時精算課税を選択すると、暦年課税の基礎控除額110万円を控除することはできない。従って、贈与を受けた財産が110万円以下であっても贈与税の申告をする必要がある。
    A 相続税額の計算
    相続時精算課税を選択した場合に、その贈与者が亡くなると、それまでに贈与を受けた相続時精算課税の適用を受ける贈与財産の価額と相続や遺贈により取得した財産の価額とを合計した金額を基に計算した相続税額から、既に納めた相続時精算課税に係る贈与税相当額を控除して算出する。
    その際、相続税額から控除しきれない相続時精算課税に係る贈与税相当額がある場合は、相続税の申告をすることにより還付を受けることができる。
    なお、相続財産と合算する贈与財産の価額は、贈与時の価額となる。株式の場合、その後の経営努力で価値が増加した時には、増加分は、相続財産の対象にならないが、逆に、価値が減少しても、贈与時の価格で評価されるので注意が必要である。この制度を使う場合は、株価を上昇させられる自信がある時に限られよう。
    他方、贈与後の配当等の果実は、相続財産から排除できるメリットはある。

  5. 適用手続
    相続時精算課税を選択する受贈者(子)は、選択に係る最初の贈与年の翌年2月1日から3月15日までの間(贈与税の申告書の提出期間)に納税地の所轄税務署長に対して「相続時精算課税選択届出書」を提出する。
    相続時精算課税は、受贈者である子が贈与者である父、母ごとに選択できるが、いったん選択すると、贈与者が亡くなる時まで継続して適用され、暦年課税に変更することはできない。
(5)経営承継円滑化法の利用
中小企業における経営の継承の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)により、 @ 相続時に、経営を承継しない相続人から遺留分減殺請求を受ける危険がある時に、生前に、推定相続人全員の間で、遺留分放棄を事前に取り決める合意をし、または、株式の価格を合意しておくことが可能である。 A 後継者である受贈者(「経営承継受贈者」という)が、贈与により、経済産業大臣の認定を受ける非上場会社の株式等を先代経営者である贈与者から全部又は一定数以上取得し、その会社を経営していく場合には、その経営承継受贈者が納付すべき贈与税のうち、その非上場株式等(一定の部分に限る)に対応する贈与税の納税が猶予される。 B 非上場株式を相続により取得した中小企業の後継者で、経営承継法における経済産業大臣の認定を受けた非上場中小企業において、その後継者が先代経営者から相続により自社株式を取得した際に、自社株式に係る相続税の80%の納税を猶予することができる制度がある。 C 事業承継に伴う多額の資金ニーズ(自社株式や事業用資産の買取資金、相続税納税資金等)や信用力低下による取引・資金調達等への支障が生じている場合に、信用保証の枠の拡大、日本政策金融公庫等による代表者個人に対する貸付けを利用することができる。
(6)種類株式の利用
  1. 株式を、経営を承継しないものに相続させざるを得ないときには、種類株式を発行すると効果的である。
    例えば、2人以上の子供がいて、一人が事業を承継するが、相続財産の大部分が株式であるため、他の子供も株式を相続せざるを得ないケースである。
    あるいは、社内の優秀な者に事業を承継させるが、相続財産の大部分が株式であるため、相続人が株式の大部分を相続し、事業承継者は一部の株式のみ所有するというケースである。
    このようなケースでは、議決権制限優先株式という種類株式を発行し、事業を承継しない株主の株式をこの種類株式に変更するとよい。
    議決権制限優先株式は、議決権を有しないが、剰余金の配当、残余財産の分配で優先する種類株式である。議決権制限優先株式を譲渡制限なしにすることも可能で、換金性を賦与させておくこともできる。
    種類株式の発行には定款の変更で、そのさいは特別決議(過半数の議決権ある株主が出席し、3分の2の賛成が必要である)による。
  2. これだと、必ずしも満足のいく仕訳ができなければ、「属人的な定め」をして、利害を調整し、経営にタッチしない相続人は、利益を優先的に受けるが、議決権を輸せず、経営に口を出さないとすることを考えるべきである。
    全株式に譲渡制限がついている閉鎖会社(通常の中小企業はこれである)では、議決権、剰余金、残余財産の分配で、株主ごとに異なる取り扱いをする旨を定款で定めることができる(会社法109条2項)。これが、「属人的な定め」である。
    属人的な定めの例としては、「株主は、所有する株式数にかかわらず、一人につき、1個の議決権を有する」、「株主である取締役は、1株につき3議決権を有する」、「10株を超える株式を有するものは、10株を超える株式につき、剰余金(又は残余財産)の配当を受けられない」、「株主は、所有する株式数にかかわらず、同額の残余財産の配分を受ける」などがある。
    「属人的な定め」をするための定款変更は、特別決議では足りず、特殊決議が要求されており、総株主の半数以上であって、総株主の議決権の4分の3以上の多数で決議する必要がある(309条4項)。株式公平の原則を排除する定めであるため、要件は厳しいのである。
    なお、「属人的定め」は、登記出来ない。
(7)会社分割の活用
後継者が複数いて、いずれも優秀であれば、会社を分割して、それぞれに頑張らすという方法が効果的である。「両雄並び立たず」というわけである。
この場合、早めに分割し、経営ノウハウを伝授するとよい。
会社を分割しておけば、金庫株の利用など、相続の納税資金のねん出も、柔軟にできるというメリットもある。
(8)持ち株会社の利用
持ち株会社にして、従来の会社は、その完全子会社とし、相続人は、持ち株会社の株式を持つ。事業承継者は、その過半数の株式、又は、議決権の過半数を持つことにする。
これにより、株式の3分の2でなく、過半数で会社を支配できることになる。
(9)定款で相続後の株式買い取りを規定
  1. 定款で定めれば、会社は相続人から譲渡制限株式を買い取ることができる(会社法174条)。
    この制度は、相続後の会社内の内紛を防ぐ、会社法上の制度である。
    ただし、買い取り時に、分配可能金額を超えることはできず、期末の予想される財産状態からマイナスが予想される時も、買い取りはできない。
    違反すると、譲渡人、業務執行者等は、会社に対して賠償責任を負うことになる。
    会社に、買い取り資金がある時は、相続人対策としては、この方法が最も簡明である。
  2. この場合、他の株主から買い取り請求を受けることは無い(自己株式を合意で買い取る時は、他の株主の買い取り請求権がある)。
(10)オーナー一族のシェア―拡大―新株予約権と金庫株の利用
  1. オーナー一族の株式シェアが少ない時は、そのままでは、第三者に口を出されてしまう。さらには、経営の座から追われるという事態もありうる。その対策としては、新株予約権や金庫株の利用が考えられる。
  2. まず、金庫株を予め定められた価格で割り当てることにする。これを、予め定款に規定して、取締役または取締役会の決定でできることにしておくのである。
    また、新株予約権を割り当てておいても、同じ効果が期待できる。
    株式譲渡制限会社で、金庫株の割り当や新株予約権の付与をするには、原則として総会の特別決議が必要なので、定款で予めこの様に手当てをしておくことが必要である。
    また、この場合一定事項を登記することが必要である。
  3. 後述のとおり、この方法は株価の減価にも効果がある。
(11)社長の貸付を忘れずに
社長の会社への貸し付けは、相続財産となることを忘れてはならない。
誰が承継するかは重要で、株式を相続したと同じように、内紛の素になりやすい。
会社に対して債権を放棄する時は、会社に免除益が発生することに注意する必要がある。
(12)債務の承継に注意
  1. 被相続人の債務は、遺産分割の対象外であるが、このことを失念している場合が多いので、注意が必要である。
    承継者が株式を承継し、多くの財産を相続したことになるので、債務も当然に責任を負うだろうと考えがちである。しかし、それは全く間違いなのである。
    遺産分割で、より多く遺産を承継するものに債務も承継するように相続人間で約束ができても、それは、債権者に対抗できない。
  2. 実は、債権者には選択権があり、法定相続分に応じて、各相続人に請求できるし、多く積極財産を取得したものにたいし、その額に応じて請求できるのである。
    これを失念すると、相続人間では解決できたつもりでいても、債権者から想定外の請求を受けて、すでに成立した解決案には錯誤があったという主張が出て来て、後に相続人間で紛争となる危険がある。
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