70回 旅行広告の写真

 

広告に載せる写真選びは、旅行業者も常々苦労しているであろう。その選択の是非で、売り上げも左右されるはずである。しかし、旅行者へのアピールを考えるあまり、勇み足とも思える例もみうけられる。無用なトラブルにならないよう、今回は、旅行広告の写真について検討することにしよう。

 

<ホテルの部屋の写真>最近のことであるが、国内のペンションを経営している人から、パンフレットの写真のことで、お客とトラブルになっているという相談を受けた。

そのペンションは、3ランクの部屋があるが、パンフレットには最上位のランクの写真を掲載していたところ、最下位の部屋を注文したあるお客が、到着するなり自分お部屋がその写真とは違うといって怒りだし、説得を振り切って帰ってしまったという。しかも、あとから旅行が出来なくなったことについての慰謝料を支払えとまで言い出したので、相談に来たのであった。

見ると、パンフレットの部家の写真には、最上級の部屋であることの説明はなかった。おそらく、ペンション内で、一番良い部屋の一番眺望の良い部屋を撮影したのであろう。しかし、その部屋は、最上級で、他のクラスは部家の質も眺望も異なるといいう事を率直に説明しておけば、かようなトラブルは起きなかったはずだ。

最上級と記載していない以上、お客がそのような部屋だと期待するのも無視できないとはいえ、部屋にランクがあることは旅金表から明らかである。また、ホテルやペンションは、部屋により、更正や眺望が異なることは常識である。自分の予約したクラスが、その写真の通りと決めつけるのが一方的すぎることは間違いない。裁判になれば、ペンション側が勝つ可能性は高い。

しかし、現代の立法傾向、裁判の動向は、業者の消費者に対する情報提供義務を重視する。写真を掲載するときには、その位置づけを曖昧にせず、旅行者に誤解を与えないよう、丁寧な説明を付すべきである。

 

<旅行広告の写真>写真と現実とが異なることからのクレームは、企画旅行の募集に際しても、よく起こるので注意されたい。

旅行目的地の国の風景であっても、当のパックツアーの目的地でなく、訪問予定でない場所の風景写真やイラストを掲載するケース、例えば、北イタリアのみの旅行なのに、南イタリアの写真を掲載してしまう。目的地で行われる祭事やフェスティバルではあるが、当のツアーの時期には行われないものであるというケース。当の旅行とは違う季節の風景写真を掲載してしまうケース、例えばツアーは、春なのに秋の写真を掲載するような例、などがありうる。

旅行目的地以外の写真、時期は違ってもその国の代表的祭事の写真、違う季節の風景の写真であっても、その国のイメージづくりには役立つので、旅行者にとっても掲載する意義はあり得る。

しかし、意義はあるといっても、そのパンフレットをみて、そのツアーに参加するとその写真にあるところ、あるいは、そのような景色に遭遇できるという誤信をして旅行契約を締結し、逆に、もしその写真にであわなかったら旅行を決断しなかったはずというケースが最も困る。このような場合は、後述のように、消費者契約法で取り消され得るのだ。

 

<ガイドラインでは>JATA作成の「旅行広告作成ガイドライン」では、ツアーの目的地と写真等の場所や季節が異なるときに、原則的には、「写真、イラストがイメージである」旨を明示する事を求めているが、例外的に、日程表の記載のない、表紙や目次、旅行コースについての一般情報、旅行手続き案内などに記載する時には、イメージである旨を明示しなくてもいいとしている。ガイドラインとしては、これは合理的な線引きといえよう。

 しかし、ここでは消費者契約法に注意する必要がある。仮に表紙への掲載でも、募集パンフレットの全体構成から、応募者が自分の旅行の目的地がそのようなものだと誤信して申し込むような状況があると、虚偽事実の告知ということでその旅行契約が取消される可能性がある(4条1項1号)。

 情報提供は、出来るだけ省力せずに、豊かに丁寧にすべきであろう。これからは、旅行者からみても、不利益情報を含め、豊かで的確な情報を提供してくれる業者が、より信用出来る業者として、売り上げを伸ばしていくことになるはずである。   

71回 ホテルも倒壊?

 

姉歯一級建築士の事件は、日本中に大きな衝撃を与えた。マンションの住民は自分のマンションは大丈夫かと不安になった者も多いであろう。が、相当数のホテルが、耐震強度の不足のため営業停止に追い込まれたたことから、今回の事件は旅行業界の者も無縁ではいられなくなってしまった。

私自身は、旅行法分野の他、不動産業界にも深くたずさわっているので、複数のテレビ局から取材を受け、ニュースの中で、この一週間何回かビデオ出演させられ、実に慌ただしいものであった。

なお、本稿は、12月1日の昼頃の情報で書いていることをお断りしておく。

 

<何が問題か>マンションやホテルを建てようとする建築主は、建設会社に工事を発注するが、受注した建設会社は、設計を設計事務所に依頼する。その設計事務所は、耐震構造の計算を、それを専門とする一級建築士に下請けに出すことが多い。今回の姉歯氏はこの下請けの設計士であり、ヒューザーは建築主である。

 建設業界は、バブル後の日本社会の構造転換の中で、改革の最も遅れた産業分野の一つであり、未だに過当競争の中で多数の企業がひしめいている。その中で、ヒューザーは、ゆったりした床面積の割に価格が安いと言うことを売りにして、急速に売り上げを伸ばしていった。

 価格を安くできた最大の要因が耐震強度を犠牲にした設計であり、マスコミ報道によれば、建築基準法上必要とされる強度の30%以下という恐るべきマンションもあるという。

 本来、耐震強度が建築基準法で要求されている水準を満たしているかは、建築確認によりチェックされるはずであるが、指定確認検査機関はそれを見逃していたし、役所への申請分も建築主事が見逃していた。

 その結果、マンションだけでなくホテルも、耐震強度が不足し、震度5で倒壊する危険性のあるような建物が多数世の中に存在することとなった。

 

<被害者の保障>多数のマンションの住民が、住宅ローンを組んで購入したばかりのマイホームから退去せざるを得ないこととなった。となると、ローンの返済の他に、家賃を払わなければならない。

開業したばかりなのに閉鎖せざるを得ないこととなり、収益がないのに借り入れの返済に追われることとなるホテルも続出した。

 倒壊の危険性ありとなれば、マンションの住民は、売り主に対しては瑕疵担保責任あるいは契約解除により、買取代金の返還と損害賠償請求が可能である。建設会社や設計事務所、姉歯氏には、不法行為による同額の損害賠償請求が可能となる(これらは、不真正連帯債務として、債務者は連帯債務を負う)。

 ホテル業者は、建設業者に建設代金の返還と損害賠償、設計事務所や姉歯氏には、不法行為に基づく同額の損害賠償請求が可能となる。

 経営者はその職務を行うにつき、重大な過失により第三者に損害を及ぼしたときには、会社と連帯して損害賠償責任を負う。今回は、経営者の個人責任が認められてもおかしくはない事案という気がする。そこで、会社の資産の他、経営者の個人資産も損害賠償の原資になるはずである。

とはいっても、会社の資産、今後の収益や新たな借り入れ、個人の資産、これら全てを投入しても、今回の被害の全ては到底賠償できるとは思えない。賠償をすべき者が、被害回復をするだけの支払い能力が無ければ、権利はあっても、現実には誰も責任をとらないことになる。

 一般的に予想される流れとしては、関係者はいずれも最終的には破産で処理をせざるを得ないということになる。

 破産となれば、一般的には、配当はうまくいっても数パーセントということが相場である。被害者にとっては、焼け石に水であろう。

 

<刑事責任>耐震強度が不足で震度5程度の地震で倒壊する危険性があれば、人は誰もマンションを買わないであろうし、ホテル業者は、建物建築の発注をしないであろう。従って、耐震強度を秘匿して第三者にマンションを売却したり、ホテル業者にホテルを建てさせたりすれば、刑事上の詐欺罪が成立する。しかし、刑事事件は厳密な立証が必要である。 関係者の秘匿の意思まで明らかにするのは、大変な作業が必要である。この点は、今後の捜査当局の展開を待つしかないであろう。

 建築基準法では、建築確認に当たってのデータの改竄については、最大50万円の罰金刑があるのみで、懲役刑は用意されていない。指定確認検査機関がデータ改竄を見逃したことについては、特別の罰則規定は存在しない。おそらく、建築基準法は、耐震データを改竄するような重大な違反がなされるということは、想定していなかったのであろう。

 

<今後は>耐震データ改竄という今回の事件は、刑事事件としてどこまで発展するか現段階では不明であるが、民事的には、被害者はほとんど被害回復が出来ないことになる。

今回の被害者には、転居場所の提供を含め公的な支援が是非とも必要であろうし、将来の再発防止のため、今後、建築確認の第三者機関によるチェック体制の導入など、制度の抜本的な改革が不可避であろう。

ホテル業界の、今後のホテルの建築も、その安全面のチェックは、厳重な対処が必要になろう。      

72回  旅行業界にとっての耐震データ偽造事件

 

この二週間、耐震データ偽造問題についてテレビ朝日とフジテレビ等から毎日のように取材を受け、当事務所はてんやわんやであった。この件は、今後どこまで発展するか判らない、根の深いものである。

ただ、この件から、旅行業者も、教訓にして欲しい事項も多数感じられるので、今回はこの点を検討することにしよう。

 

<危険リスクを放置することの危険>今回の偽造問題は、ヒューザー等の建築主が、耐震強度というリスクを犠牲にして、床面積が広く安いマンションを売りまくったことから発生した事件である。

 パックツアーという旅行商品も、旅行者の危険を常に抱えているものであり、同じような問題が存在することを忘れないで欲しい。旅行は、バス等の交通機関の事故、旅行中の窃盗、パラセーリング等のレジャー関係等の事故などのほか、最近は、テロや暴動が頻発しており、このような多方面の危険を常に抱えているのである。

 こ旅行業者は、これらのリスクを回避して安全な旅行商品を提供する社会的な責任を負っているが、そのためにはコストがかかる。例えば、バス事故対策としては、現地のバス会社の選択、安全運行のための事前協議、コースの下調査、現場で必要な対処をするための添乗員の教育など、すべきことは多い。

 これらの安全に対するコストを節約すれば、旅行商品は安くなる。そうすれば、一時的は売り上げが上がるであろう。しかし、その結果事故が起きれば、ヒューザーと同じ立場に立つ。バス事故でも、死亡事故となれば、請求額は、一人1億円も稀ではない。多数の被害者がでれば、その会社の賠償能力を遙かに超えることもあり得る。

 リスクを回避するための投資を怠るとどうなるか、今回の事件が強く警告しているといえよう。

 

<リスク隠匿発見の難しさ>今回の事件で重大なポイントは、建築確認で偽造データを見逃したという点である。建築確認が必要なチェックをしていれば、発生しなかったはずなのである

しかし、このような危険は、建築業界に限らず、社会のあちこちに存在する。皆さんの会社内にも、このような脆弱生は、至るところにあると思ったほうがいい。

実は、耐震データは、膨大でチェックは本来大変である。それ故、現場では、有効なチェックがなされていなかったという現実がある。そのような現実を前提があるのなら、提出するデータの作出に共通ルールを持たせ、チェックもコンピュータで容易に出来るようなシステムにしておくという体制づくりをしておくべきであった。

 民間に建築確認を開放するのなら、官によるチェックシステム、例えば、抜き取り検査をするシステム作りが必要であった。しかし、このような対策は、その必要性さえ議論されていなかった。

 皆さんの会社内でも、リスクをチェックすべきなのに、それが不十分という状況は、結構あるはずである。皆さんの旅行商品で、危険性はじゅうぶんチェックされているだろうか。開発部署だけに任せず、それを第三者的にチェックさせるようなチェックシステムの構築は是非必要である。

 

<現場の声が上に届かない不思議>今回は、コンクリートの中にあるべき鉄筋が、大幅にはしょられていた。耐震強度が、50%以下というのは、現場のものは、容易に気ずいたはずである。しかし、現場からそのような声が漏れないまま、月日が経ってしまい、被害が広がってしまった。

 旅行商品の開発段階、また実際に旅行を実施している現場で、このままでは危険ではないかという状況は、あり得る。そのとき、現場での声が責任者まであがっているだろうか。

 企業の場合、悪い情報は、どこかで止まってしまい責任者まで届かないという現実が見受けられるのも事実である。

 添乗員が現場で感じた危険な状況が、果たして責任者まで報告されるシステムになっているだろうか。商品設計段階でネガティブな危険情報が責任者まで、きちんと届いているだろうか。

 うちだけは大丈夫と過信せずに、定期的に、自社内の危険情報の伝達状況をチェックする努力は必要であろう。      

73回 「シャワーのみ」のトラブル

 

<バスタブの有無でトラブル>最近の相談事例であるが、「ベトナムのパックツアーで、バスタブが無くシャワーだけだったとして、帰国後あんなひどい旅はない。慰謝料をよこせ」と、食い下がるお客がいて困るというものがあった。

ベトナムツアーで、ある地方都市で一泊したが、その時一回だけバスタブがなかった。ところが、その旅行者だけは、「バスタブがなければ疲れがいやされないではないか」と怒りだし、添乗員がなだめてもおさまらなかったとのこと。

 相談に来た担当者は、出発前に、ベトナムの地方都市では宿泊設備が貧弱なことはよく説明しておいたが、ただ、事前に確認が出来なかったので、バスタブの有無までは伝えていなかったとのことであった。

広告や契約書面を点検したが、「バス付き」との記載はなかったが、「シャワーのみ」との記載もなかった。

日本人にとっては、旅先で湯船に浸かれるかどうか重要視する人は多い。年輩の人にとっては、シャワーだけですますということを、生まれてから一度もしたことがないという人も結構いる。若者なら、朝シャンだけで十分という者も多いだろうが、年輩者の中には、バスタブがないということは我慢できないという人も多いようだ。旅行業者も、たかがバスタブと軽視するのは危険である。

JATAの旅行広告作成ガイドラインでも、バスタブが無く、シャワーだけの時は、その旨表示することを求めているし、何も記載がないときには、「バス・シャワー・トイレ付き」と認識されるので、注意が必要と明記されている。勿論、取引条件説明書面、契約書面にも同じ注意が必要である。

旅行契約約款別表第二の上段6号には、「宿泊機関の客室の設備」が明示されている。バスタブは客室の設備であるから、「シャワーのみ」と明示しておかないと、必要な設備がなかったとして旅行者から旅行契約が取消されることもあり得るし、本件のように旅行途中で取消しとはいかない場合であれば、後に損害賠償の問題になってしまう。この場合の損害は、シャワーがある部屋との料金の差額と、慰謝料が考えられる。

いずれにしても、バスタブがなくても平気という文化圏はベトナムに限らない。発展途上国だけでなく、ヨーロッパにも多いので注意が必要だ。

 

<「オーシャンビュー」、「オーシャンフロント」>別表第二の上段6号には、「客室の景観」もあげられている。景観として典型的なのは、「オーシャンビュー」や、「オーシャンフロント」である。これに関するトラブルは昔からあるが, 一向に無くならないので困ったものだ。

JATAのガイドラインでは、「オーシャンビュー」は、「対象物である海が客室から視野のかなりの部分を占め、その景観を特色付けている場合をいう」と定義されている。建物の間から、少しだけでも見えていればビューではないかといっても通用しない。お客は、オーシャンビューといえば、目の前に、広く海が見えることを期待しているものであり、それ故このような定義となるのである。

「オーシャンフロント」となると、もっと大変である。「海辺に位置し、正面に海を眺めることが出来ること」と定義されている。

この場合、注意すべきは、「海辺に位置し」という部分である。以前相談を受けたケースでは、山の上のホテルで、そこからは小村の家並みの向こうに、海が左右に大きく広がっているというケースがあった。旅行業者は、海辺にあるよりも海が広く見渡せるので、景観としてはこっちの方が上質で問題ないはずだと反論していた。が、「フロント」という以上、海が目の前でなければならず、「海辺に位置し」という条件は必定なのである。言葉の定義は、ルールでもあるので、厳重に注意して欲しいものである。       

74回 ダブルベッドとシングルルームのトラブル

 

<ダブルベッド>前回と同じベトナムツアー関連のケースであるが、ダブルベッドのトラブルでも相談を受けたことがある。

ベトナムの場合、地方へ行くとダブルベッドが多いようだ。二人部屋として割り当てられたらダブルベッドだったので、これでは寝れないとトラブルになったという。

友人同士でも、ダブルベッドというのは困る。ことに男性同士では、床に寝た方がいいということになる。兄弟ならいいではないかと考える旅行業者も見受けられるが、仲の良い姉妹ならともかく、一般的には敬遠される。

JATAの「旅行広告作成ガイドライン」では、ダブルベッドを割り当てていいのは、夫婦、又はハネムーンカップルだけということになっている。それを前提に、ダブルベッドになることが予想されているときには、ガイドラインでは、「夫婦又はハネムーンカップルで参加の場合は、ダブルベッドの部屋になる場合があります」と表示することを求めている。

いずれにしても、旅行先で、夫婦でもハネムーンカップルでもないのに、ダブルベッドの部屋しか割り当てられないと事態は最も避けるべきなのである。事前調査を十分しておく必要があるのは当然である。本件のようなトラブルは、典型的に旅行業者の責任になるので、注意して欲しいものである。

 

<シングルルームと追加料金>古典的なトラブルで後を絶たないものとして、旅行者が二人部屋でいいと思って旅行に参加しているのに、現地でシングルルームを割り当てられ、追加料金の請求を受けるというケースがある。

このようなケースで、広告ないし契約書面で、「1名、3名、5名のように奇数人員で参加申し込みの場合は、部屋割りの都合で、シングルルームの料金を負担していただく場合があります」としておくとどうであろうか。

予告しているのだから、追加料金を徴収してもいいではないかと言う議論もあろう。しかし、ガイドラインは、これを不適切な内容としている。

一人部屋を希望していないのに一人部屋の料金を強制することになるので適当でないというわけであろう。

旅行業者としては、旅行代金を二人一室として設定しているのに、部屋割りの関係で一人部屋が出るとコスト増になる。どうしても、割増料金を請求したくなる。この気持ちも良く理解できる。とはいえ、旅行業界の健全な発展という観点から、可能性を予告していても、一人部屋を希望しない旅行者に追加料金を請求するのは望ましくないと言うのがガイドラインの考えである。消費者としての旅行者の保護という観点からは、やむをえないといえよう。

これらの問題を解決する方法として、ガイドラインは、「この旅行では、他のお客様との相部屋の取り扱いはいたしておりません。従って、1名、3名、5名のように奇数人数でお申し込みのお客様は、どなたかお一人についてはお一人部屋のご利用となります。なお、この場合の旅行代金は0000円になります」と記載する事を提案している。

これは、常に参加グループ毎に割り振り、他のグループの人と相部屋にはしない。その代わり、そのグループには常に一人分の追加料金が付加されるわけである。判りやすく合理的な解決方法であろう。

しかし、奇数の参加者は常に一人分の追加料金が必要で、1名参加や3名参加者は割高になる。他のグループと相部屋でもいいから旅行料金が安い方がいいという旅行者を閉め出す危険もある。

他方、旅行業者としては、他のお客との相部屋になるのでもかまわないという旅行者を募集し、そのかわり部屋割りの結果一人部屋が出来ても追加料金を徴収しないこととする選択肢もある。これなら、旅行者の募集は楽であろう。

いずれを選択するかは、営業政策の問題となろう。    

75回 グリーン車の座席は、後ろ向きでは駄目か。

 

地裁レベルではあるが、ちょっと興味深い判例が出たので紹介しておこう。平成17年10月4日言い渡された東京地裁判決である(Lexis判例速報2005.12 VOL.2.

サービスを提供する業者にとっては、多くの教訓を与えてくれる貴重な判例である。

 

<事案>スーパービュー踊り子号2号のグリーン車での話である。Aは、平成16年の正月休暇を家族とともに南伊豆で過ごした帰り、グリーン券を購入して乗車したところ、指定された座席は最後尾であり、座席は後ろ向きで固定式であった。これでは到着まで後方のみを眺めざるを得ないので車掌に苦情を申し入れたが、満席で他の席に移動する事も出来なかった。

そこでAは、このように後方に走り去る光景ばかりを視野に入れざるを得ない座席の提供は運送契約上の債務不履行であるとして、損害賠償として慰謝料50万円の支払いを求めて、訴訟提起した。

 

<判決は?>運送業者としては、特急料金及びグリーン料金を受け取った以上、それに相応する設備及びサービスを提供し、快適性を確保する債務を負ったと解するのが相当であるとした上、設備の内容につき、提供者に「裁量の余地」も認められており、本件座席がグリーン車として「客観的に要求されている快適性を欠くとまではいえない」として、債務不履行責任を否定し、請求を棄却した。

 

<判決は妥当か>本件の原告であるAは、実は弁護士であった。だからこそ、このような少額訴訟を弁護士費用考えることなく出来たのかもしれない。

 とはいえ、座席が後ろ向きのままという運送機関は時々見かける。鉄道の性格上行きと帰りで先頭車が逆になるので、固定式で進行方向に直角の座席だと、座席が後ろ向きのまま進行するということにならざるを得ない。

 それに不快感を感ずるものは確かに居るであろうし、そのような者にとっては、特急料金とグリーン料金を支払っていながら、そのような座席しか与えられないのはでは納得できないと言うことになろう。

 他方、展望の利く席であれば逆向きであっても差し支えないという者も多いはずである。

確かに、一般論からすると、特別の料金を支払った以上、それに相応する設備とサービスが提供されるべきなのは当然のことであり、それは、運送契約の基づく法的義務といえよう。本判決もそのような考えに則っている。ただ具体的にどのような設備やサービスが要求されているかという各論となると、その線引きは難しい。何が快適な設備でサービスかと言うことは、極めて主観的なもので一律に決めることは困難である。また、提供すべき設備やサービスにもその選択肢は多数ある。いかなる設備やサービスを提供するかは、提供する側に「裁量の余地がある」という本件判決の判断は当然である。そして、世の中の多数者が不快感を感ずるというのでない限り、本判決のように、「客観的の要求される快適性を欠くとまではいえない」と判断されることになろう。その意味で、本判決の結論は妥当であろう。

 

<サービス業者にとっての教訓>訴訟になれば勝てるとしても、予防法学上はトラブルを可能な限り排除したい。では、サービス業者として、本件のようなトラブルを回避するにはどうしたら良いのであろうか。

 同じ特別料金を支払わせたとしても設備やサービス内容に差が出ることは往々にして有り得ることで、その場合、本件のようなトラブルが生じることは十分有り得る。

同じ料金でも設備やサービス内容に差が出るときは、あらかじめその旨明示して、それを前提にお客に選択権を与えるべきである。本件でも、後ろ向きになる席があることと、自分の席がそれに該当するかどうか購入前に判れば、本件のようなトラブルは避けられたはずである。

 このことは、鉄道輸送の場合に限らず、様々なサービス提供のケースに当てはまるはずである。サービスを提供する者にとっては、本件は多いに参考になろう。     

76 羊蹄山有料登山ツアー凍死事件

 

<始めに>今回は、有名な「羊蹄山有料登山ツアー凍死事件」について、検討することにしよう。これは、添乗員が業務上過失致死被告事件の被告人となり、札幌地裁において、平成16年3月17日、禁固2年、執行猶予3年の有罪判決が出されたものである。

ツアーガイドの事例であるが、平成12年3月21日、同じく札幌地裁の小樽支部で、スノーシューツアー中の雪崩で2名が死傷した事故で、禁固8月、執行猶予3年の有罪判決が出されている。

添乗員やツアーガイドが刑事訴追を受けると言うことは決して稀ではないのである。

なお、日本人の添乗員等が外国で事故を起こした場合は、日本の刑法は適用されないが、現地で現地の刑事処分を受けることがあり得るので、十分注意して欲しい。

 

<どんな事故だったか>被告人は、旅行業等を営む株式会社A社の旅行本部営業統括室国内仕入造成サブマネージャーというポジションにあり、同社の主催する有料登山ツアーの企画立案、ツアー客の引率等の業務に従事していた。それまで多数の登山ツアーの添乗をしていたベテランであった。

平成11年9月22日から同月26日までの日程で、16名のツアー客が参加した羊蹄山(標高1898メートル 北海道虻田郡)等の有料登山ツアーが催行された。被告は添乗員としてこれに同行し、ツアー客を引率して、25日午前11時30分頃、羊蹄山の登山道9合目(標高約1700メートル)の分岐点に到着した。ところがこの時点で、16名のうちB(当時59歳)とC(当時64歳)が遅れていた。しかし、被告人は、遅れてついてくるものと軽信して合流を待たず、そのまま登山引率を継続してしまった。

当時濃霧で視界が悪く、また、そこより上はガレ場や登山道の分岐が続く状況であり、遅れてたどり着いたBとCは、登山道の分岐点から左に行くべきところを右に行ってしまい、登山道を見失ってしまった。その後は、ルートを見失い迷走状態に陥りって、翌26日未明、凍死体で発見されるに至った。

二人とも老後の趣味として登山を楽しんでいたが、登山に特殊な訓練を受けているわけでなく、羊蹄山は初登山であった。分岐点は、道幅が右折した方が広く、その傾斜も山頂への近接を誤解させるような形状にあった。さらに、「右→山小屋」「噴火口回り道←左」と読みとれる標識が分岐点に倒れていた。濃霧で全体を見渡せない悪天候下で、BとCは、このような状況下で、ルートの選択を誤ってしまったのである。

当時は降雪時期直前で寒く、しかも台風18号の接近により強風が吹き荒れ、体感温度は零度を下回る状態であった。その結果、最悪の結果を迎えてしまったのである。

 

<裁判所の判断>「契約上、添乗員には、ツアー客の安全かつ円滑な旅行の実施を確保する義務があり、そのために天候状況等諸要素を考慮して行程を中止するなどツアー客を指示に従わせる権限があり、とりわけ登山ツアーには通常の旅行以上に遭難、落石、転倒等による人の生命・身体に対する危険を防止することを義務内容とする職務に従事」しているとして、添乗員の業務は、業務上過失致死傷罪にいう「業務」に該当することは明白とした。

そして、「被告人は、悪天候下での登山を決行し、遅れがちの被害者を待って合流するのは容易であったにもかかわらず、これを怠って自集団だけで山頂を目指し、適切な引率を受けられなくなった被害者らを迷走させて凍死させたものである。その過失内容は、軽率の謗りを免れない」と判断し、前述の通りの、有罪判決をした。

 

<教訓>本判決は、添乗員が個人として刑事責任を負わされたケースでありその点で当時注目されたが、同時に、本判決は、本件の背景には「利益優先の企業体質がある」ということも指摘している。

 悪天候のなかで登山ツアーを決行し、かつ、とにかく早めにツアー客を登頂させようとした添乗員の焦りの背景には、それを強いる企業体質があるというわけである。

 本件は国内事件であるが、最近は海外ツアーでも、登山やトレッキングは勿論、それ以外でも危険を伴うツアーが増えた。本件のように、ツアー客が事故に巻き込まれる危険性は、高まっているといえる。添乗員やツアーガイドに無理がかかるような運用は、決してしないようにして欲しいものである。

 刑事事件としては、直接の行為者である添乗員やガイドが責任を問われ、雇用する会社まで責任が及ばないことが多い。が、民事の損害賠償では、添乗員等だけでなく会社が「使用者責任」を問われることになる。死亡事故ともなれば、中小の旅行業者は、その賠償額の負担で存亡の危機ともなりかねないので厳重に注意されたい。   

77回 ツアー中の雪崩事故とガイドの責任

 

前回に引き続いて、ツアー中に事故で、刑事事件になったケースを紹介しよう。事案は、前回でも紹介した、札幌地裁小樽支部平成12年3月21日判決である。

危険を伴うツアーが増えるなかで、ツアー中の危機管理は重要である。本件のなかから、危機管理のヒントを探り出して、今後のツアーの企画に役立てて欲しいものである。

 

<事実関係>被告人A,B両名は、北海道虻田郡所在のホテルの地下一階に事務所を置く、OOプロスノーボードサービスの従業員として勤務し、冬期間におけるスノーシューイング(スノーシューイングと呼ばれる洋式のかんじきを付けて、雪上を散策)のツアーの企画、参加者の募集、及びガイド等の業務に従事していた。

AとBはガイドとして、平成10年1月28日、有料スノーシューイング・ツアーに応募したC子(当時24歳)とD子(当時24歳)の二人を引率し、午前10:30頃出発した。そして、午前11時45分頃、ニセコアンヌプリ山の南東側に位置する「春の滝」と呼ばれるところで休憩を取っていたところ、4人とも、破断面の幅が約200メートルの大型の面発生乾雪表層雪崩に巻き込まれて雪中に埋没し、救助されたものの、C子は入院加療6日を要する全身打撲と偶発性低体温症の傷害を負い、D子は、札幌医科大学医学部付属病院において雪崩事故に起因する急性心不全で死亡するという大惨事になってしまった。

A,Bは業務上過失致死傷罪に問われ、いずれも、禁固8月、執行猶予3年の有罪判決を受けた。

 

<雪崩の可能性>休憩場所は、「春の滝」の急斜面の斜面を目前に望む場所で、急傾斜の沢筋であり、樹木がほとんど生えていなかった。しかし、このような樹木のまばらな沢筋は、雪崩の通過地点とされているのである。

その場書の斜度は38度あった。しかし、雪崩が発生するのは30度から40度の急傾斜とされている。

破断面を生じた箇所への迎え角は約28度であった。しかし、表層雪崩発生地点への迎え角が18度以上の場所は雪崩に巻き込まれる可能性が高いとされている。

まさに、雪崩が起こっておかしくない場所で休憩をしてしまったのである。しかも、これらの注意ポイントは、市販の冬山の文献に普通に記載されているもので、この程度の知識はAもBも有していた。

さらに、「春の滝」は、地元山岳関係者やスキー場関係者から雪崩危険区域と認識されているアンヌプリ山の南東側斜面に位置する扇状急斜面であり、春になると雪解け水で滝が出来るのでそのように呼ばれていた。ニセコスキー場安全利用対策連絡協議会はチラシを作成配布していたが、本件休憩地点はそのなかで危険地区に入っていた。AとBは、このことも十分認識していた。

事故の前4日間断続的に雪が降り続いて積雪は44センチの増加、危険とされる厳冬期の表層乾燥雪崩発生の危険が強く、当日は札幌管区気象台から大雪雪崩注意報が発令されていた。

まさに、いつ雪崩が起こってもおかしくない時期と場所で休憩を取ってしまったのである。

 

<AとBの経歴>Aは、高校時代から冬夏を問わず20数年の登山経験があり、県山岳協会加盟の理事、雪崩事故防止講習会の講師を務めたこともあった。登山用品店のアドバイザーや、個人で北アルプス等の山岳ガイドをするなど山岳関係の仕事に就いたあと、平成6−7年頃から冬期間は本件のガイドの仕事をしていた。

Bは、平成2、3年にOOプロスノーボードサービスで稼働し、冬山登山をするようになった。平成4年からは、倶知安町に定住し、平成8年頃から冬期間は、本件のガイドとして稼働していた。

このように、両名とも、冬山の経験は豊富でガイド歴も長い。ことに、Aは、雪崩事故防止講習会の講師を務めたこともり、雪崩には詳しかったはずである。

 

<教訓>本件は、雪崩の危険性も現場も知り尽くしていたはずのベテランが、最も危険な時期に、最も危険な場所で休憩を取ったがために起きた事故である。事故というのはこのように、まさに「どうして」という状況下で起きるのである。

 日本では、山岳ガイドには特別の資格は要らないが、ヨーロッパなどガイドの資格が厳格なところでも事故は絶無ではないという。危険を伴うツアーを企画するときには、ガイドの経験や資格だけに頼り切るのは危険だということはまず認識すべきであろう。

 本件では、AとBは、ツアーの当初の目的地であるチセヌプリは天候が悪いことから、半月湖周辺への変更を提案したが、D子が半月湖周辺へ行った経験があるのでそれ以外の場所を希望したため、AとBは相談し、最も危険な「春の滝」方面を目的地に選定してしまったといういきさつがある。

 ここに、本件の重要なポイントがあると思われる。人は、その場で、特定の問題の解決に集中していると、その問題のみに執着し、それを客観的に検証する余裕がなくなるという弱点がある。本件も、どこへ行くか相談しているうちに目的地がいかに危険かの検証が抜けてしまったのであろう。目的地の変更はやむをえないとしても、新ルートが安全か、チェックする第三者が必要だったのである。チャックシステムがあれば、雪崩の危険性が浮かびあがったはずである。第三者のチェックは、どんな、ベテランに対しても必要だということを忘れないで欲しいものである。        

78 欲張った「ハンパな処理」がトラブルを呼ぶ---旅行契約は成立したか?

今回は、窓口レベルでよく起こるトラブル事例を素材に、トラブルはなぜ生じるかを考えてみよう。

 

<ケース>Aは、B社の営業所で「Mホテル指定の台湾行きのパックツアー」の申し込みをした。しかし、B社の担当者Cは、「航空便はとれるがホテルは満室なので、すぐには解答できないが、取消料の発生する時期に入っているので、とりあえず申込金を払って欲しい」といって、Aから2万円を受け取った。

Cは、その後ホテルが満室でとれないことを最終確認し、その日の夕方、Aに「ホテルがとれないので申し込みはなかったことにして欲しい」と連絡。

ところが、Aは、「旅行は決行したいので、Mホテルと同等クラスのホテルで手配をして欲しい」という。Cは、それを受け、空室のあるNホテルを探してAに提案した。ただ、NホテルはMホテルより格上で、3万円の追加料金がかかることを伝えた。それを聞いたAは、「申込金を払っているのだから、B社にはMホテルと同等のホテルを確保する義務があるはずで、それが出来なければ差額はB社でもて」といって引き下がらない。

 

<どちらの主張が正しいか>これは窓口レベルでよくある事例である。

旅行契約の成立時期は、旅行契約約款に明記されている。募集型も受注型も、旅行業者が契約の締結に承諾し、申込金を受理したときに成立することになっている(第8条1項)。

つまり、旅行契約成立には、「承諾」と「申込金の受理」の両者が必要なのである。

本件では、申込金の受理はしたが、「ホテルは満室なので、すぐには解答できない」と言って承諾は留保している。従って、契約は成立していないと言うべきである。そもそも、民法の一般原則からしても、契約は、申し込みの意思表示と承諾の意思表示の合致があって初めて成立するものである。承諾がなければ契約は成立し得ないのである。

従って、Cによる「NホテルはMホテルより格上で、3万円の追加料金がかかるがどうか」というのは、新な契約の申し込みとなる。

Aはこれを受け、YESかNOの返事をすべきで、「申込金を払っているのだから、B社にはMホテルと同等のホテルを確保する義務があるはず」と主張するのは無理であり、法的には通らない。契約が成立していない以上、同等のホテルを確保する義務があるわけがないのである。

 

<なぜ起きたか>ではなぜ、本件のトラブルが生じたのであろうか。

本件は、申込金を払わせた点が問題である。人は、金を払った以上契約は成立したはずと思いこみがちなのである。金を払うというのは、それが一部であっても、払った本人にとっては、重い意味を持ってしまうのである。

今回のようなケースでは、申込金を受け取らずに、Mホテルが手配できるか最終確認を急ぐのが最良の処理だったのである。実際、Cはその日のうちに解答をしている。であれば、申込金を受け取るまでもなかったのである。

本件は、結局はお客を逃がしたくないので、一部でも払わそうというスケベ心がトラブルを招いたと言えよう。このような「ハンパな処理」がトラブルを呼ぶのである。   

79 前回の応用事例

前回の本コーナーに対しては、いくつかの質問があったので、今回は、それに答えるかたちで、さらに深く事案を検討しよう。

 

<前回のケースの概略>「Mホテル指定の台湾行きのパックツアー」の申し込みに対し、担当者は、「航空便はとれるがホテルは満室なので、すぐには解答できないが、取消料の発生する時期に入っているので、とりあえず申込金を払って欲しい」といって、Aから2万円を受け取ったケース。

ホテルが満室でとれないことを最終確認し、その日の夕方、「ホテルがとれないので申し込みはなかったことにして欲しい」と連絡。ところが、旅行者が、Aは、「旅行は決行したいので、Mホテルと同等クラスのホテルで手配をして欲しい」と要望。担当者は、空室のあるNホテルを探してAに提案。ただ、NホテルはMホテルより格上で、3万円の追加料金がかかることを伝えた。それを聞いた旅行者は、「申込金を払っているのだから、B社にはMホテルと同等のホテルを確保する義務があるはずで、それが出来なければ差額はB社でもて」といって引き下がらない。

 

<どちらの主張が正しいか>この点は、前回詳述した。旅行契約成立には、「承諾」と「申込金の受理」の両者が必要(第8条1項)。本件では、申込金の受理はしたが、「ホテルは満室なので、すぐには解答できない」と言って承諾は留保している。従って、契約は成立していない。旅行者が、「申込金を払っているのだから、B社にはMホテルと同等のホテルを確保する義務があるはず」と主張するのは無理であり、法的には通らない。

 

<いつも契約不成立といえるか>ケースでは、「ホテルは満室なので、すぐには解答できない」と言ったとして契約不成立の事例にした。しかし、実際のトラブル例では、この点が曖昧なことが多い。「満室だけど、何とかなるでしょう」とか、満室との情報を隠して、「手配してみましょう」等と曖昧な返事をして、申込金を受け取ってしまうことが多い。

 曖昧なやりとりをすると、それぞれ自分に都合よく理解してトラブルになる。ことに本件では、旅行者は、申込金まで払っているので、契約成立と認識しやすい。

 3万円という金額は、台湾旅行のパックツアーの契約額の1割ぐらいであろう。この1割という数字は、一般には、契約成立時の手付け金の金額である。むしろ、契約成立と

思われやすい数字である。

なぜ起きたか>ではなぜ、本件のトラブルが生じたのであろうか。

本件は、申込金を払わせた点が問題である。人は、金を払った以上契約は成立したはずと思いこみがちなのである。金を払うというのは、それが一部であっても、払った本人にとっては、重い意味を持ってしまうのである。

今回のようなケースでは、申込金を受け取らずに、Mホテルが手配できるか最終確認を急ぐのが最良の処理だったのである。実際、Cはその日のうちに解答をしている。であれば、申込金を受け取るまでもなかったのである。

本件は、結局はお客を逃がしたくないので、一部でも払わそうというスケベ心がトラブルを招いたと言えよう。このような「ハンパな処理」がトラブルを呼ぶのである。