45回 第6弾――受注型と募集型の谷間

 

<始めに>今回の改正では、募集広告の適正化の一環として、として、受注型企画旅行を装った事実上の募集型企画旅行が行われないよう、広告規制を強化することが予定されていた。

簡単にいえば、第三種の旅行業者のまま、事実上の募集型の企画旅行を販売するという脱法行為を防止しようというものであった。募集型企画旅行を販売するためには、第一種ないし第二種の登録が必要であるが、そのためには営業補償金が大幅に増加するため、かような脱法行為が目に付くのも事実である。

第二種の業者が、海外の企画旅行を行うときにも同じ問題が生じる。

この点に関する通達も出されており、企画旅行の募集広告と誤認されるような広告とは、「旅行代金、出発日、又は旅行日程のいずれか一つ以上を表示して旅行契約の締結の申し込みを誘引する広告」であるとされる。これをうけ、新ガイドラインでは、「受注型企画旅行については、具体的な旅行内容を示しての広告が出来ないことから、広告する場合は、例えば旅行業者の得意とする取り扱い分野、手配地域などを示す等して、企画旅行についての興味を引き起こさせ、企画依頼を誘引する広告に限られる」としたうえ、受注型企画旅行の広告作成例と企画書面の作成例をあげている。

得意な取扱分野とは、例えば、「海外職場旅行」のような記載、得意な手配としては、例えば、「ハワイ・オーストラリア」のような記載である。

 

<相談事例から>最近、ある第三種の旅行業者から、旅行計画のサンプル広告に関する相談をうけた。そのサンプル案を見ると、ハワイの一週間の旅行計画として、一日ごとに、訪問するスポットが記載されていた。これは、どう見ても、前述の「誤認される広告の例」として記載されている「旅行日程」の表示である。

相談者は、サンプルの広告だから募集でないと自信を持っていて、これに、最低料金を記載していいかがその時の相談事項でであった。たしかに、その広告には、「これはサンプルである」旨記載されていた。

しかし、サンプルならいいという理解は誤りである。募集広告であっても、自己の全商品を載せるのではなくて、その中でピックアップしたサンプルを載せるのが通常である。

募集型と企画型の違いは、募集型は、先に旅行計画があって、不特定多数に申し込みを誘引する。他方、企画型は、先に発注者がいて、発注者の意向で計画を策定する。確かに、前述の取り、「旅行代金、出発日、又は旅行日程のいずれか一つ以上を表示」すれば、それは、単に得意分野をアピールする受注型の広告の域を超えて、ラフではあっても、既に存在する旅行計画に対して、募集をかけてくることになる。すなわち、受注型となる。

とはいえ、得意分野のアピールといっても、アピールの仕方によっては、受注型の域を超える虞も生じる。ハワイを得意分野としてアピールするに当たって、ハワイ内の得意とする観光スポットを多数掲載するのは広告の手段としては効果的であるし、そこまでなら受注型の域を超えないであろうが、それをさらに分類などすると、旅行日程の表示と紛らわしくなり、受注型の域を超える虞もでてくる。このようにその限界の見極めは難しい。判断に迷えば、専門家に相談するのがベターであろう。   

46回 第7弾  ランドオペレーターは旅行業者か

 

<ある法律相談から>ランドオペレーターには、例えば、ホテルの宿泊料金を決めるにあたって、ある範囲内では裁量権があることも多い。裁量権があるということは、「値決め」が出来るということで、旅行業者との違いがどこにあるかという質問であった。

 今回の旅行業法の改正で、旅行業の定義の中で、「自己の計算において」という下りがあるので、「値決め」が出来るということは、旅行業者であり、旅行業者として必要な登録が必要になるのではないかとの心配からであった。

 

<旧旅行業法ではどうなっていたか>旧旅行業法では、旅行業については、第2条1項で定義されていた。そこでは「旅行業者」とは、「報酬を得て、次に掲げる行為を行う事業」として、7項目あげられていた。

 そこでは、「旅行者のため‐‐‐‐‐‐‐代理して契約を締結」、あるいは「旅行者に対するこれらのサービス提供について‐‐‐‐‐‐‐‐‐代理して契約を締結」とある。前者の書き方は、直接旅行者から委託を受けて、旅行者を一当事者とする契約を結ぶ場合であり、後者の書き方は、運送業者や宿泊業者から委託を受け、旅行者との取引を行う場合である。

 要するに、委託されるのが、旅行者からであろうが、運送業者等からであろうが、代理ないし代行して契約を結ぶその一方当事者は常に旅行者なのである。

 ランドオペレーターは、その本来的業務は、業者と取引をするものであり、旅行者と直接の契約関係には立たず、その限りでは「旅行業者」ではなかったのである。

 

<改正法ではどうなったか>改正法では、同じく第2条で定義規定をおいているが、旧法での前述の7項目の内容は変えずに、これらの前に、1号および2号として、2項目が追加された。それにより、旅行業者としての対象行為が9項目になった。

 追加された1号では、「旅行に関する計画」を、「旅行者の募集のため」又は、「旅行者からの依頼により」作成することと、それを実現するために、「運送等サービス提供にかかる契約を、自己に計算において、運送等サービスを提供するものとの間で締結する行為」を掲げている。

 2号では、これら1号に付随するサービスに関して、「自己の計算において、運送等関連サービスを提供者との間で締結する行為」をあげている。

 要するに、募集型、受注型にかかわらず、まず旅行者のための「旅行計画」を作成することと、その計画を実現するため、関連サービスを含めた手配を行う行為を掲げている。

となると、ここで「旅行者の募集」、「旅行者からの依頼」と明記されているとおり、「旅行業」となるための対象行為は、1号と2号では、旅行者と直接の契約関係にたった上、またはそれを前提にして、旅行計画を作成することと、それを実現する手配があげられているわけである。

 3号以下は、旧法の1号以下と内容は変わらない。

 以上を総合すれば、旅行業法で「旅行業」とされるのは、旅行者と直接契約関係に立つことを条件とすることは、新法になっても全く変わらないのである。このことは、旅行業法が、旅行者の保護を立法の根底に置いていることからも当然のことであろう。標準旅行業約款も、改正前、改正後ともに、旅行者と業者間の契約を前提にしている。 

したがって、ランドオペレーターにおいて、仮にホテル等の値段設定に裁量権があっても、そのことから、ランドオペレーターが旅行業者になり、旅行業者としての登録をしなければならないというわけではないというのは、改正法下でも変わらないのである。  

47回――個人情報保護法が施行されて一月半――手段の目的化

 

<手段の目的化>JR西日本の脱線事故は多数の死傷者が出て日本中に大きな衝撃を与えた。が、事故後の原因追及の中で次第に明らかになってきたことは、「手段の目的化」という病弊であろう。

 鉄道という公共機関の使命は、乗客に対し利便性と安全性を提供することであるはず。そして、その手段として、列車の定時運行ということが必要となる。ところが、本来手段であるはずの定時運行が目的化し、後れを取り戻すために乗客の安全が後回しになったというのが、この事故の本質であろう。

 飛行中に部品をばらまいたり、高空で客室の気圧が急減したため急降下したというトラブルを連発するJALも、同種の病弊を抱えているのではなかろうか。

 組織を運営していると、ちょっとの油断で「手段の目的化」という病弊が発生する。しかもこの病弊は、時には大事故を招聘する恐ろしいものなのである。

この病弊がなぜ起こるかといえば、各部署が、全体を考えず、つまり、その本来の趣旨を考えずに、目の前の問題点だけを解決して手満足してしまうからである。組織が柔軟であれば、このような病弊の存在が生じても、それを解消しようという組織力学が働くが、老朽化し、硬直した組織内では、それが当たり前になって、病弊が肥大化してしまう。

 

<個人情報保護法が施行されて>個人情報保護法が施行されて1ヶ月半が経とうとしている。多くの旅行会社は、旅行契約申し込み時(個人情報取得時)には、利用目的や譲渡先を明示して書面で承諾を得る。ウエッブサイトで、保有する情報の利用目的やアクセスの方法を明らかにする。情報管理責任者を選任するなどの必要な処理を完了しているようである。産業界は、当初の予想よりも早く、個人情報保護の体制作りの整備を進めていると思われる。

 各社は、各種ガイドラインや刊行物、研修会等で、そのノウハウを仕入れて、それを実行したのであろう。しかし、その実体を見ると、表面的なノウハウのみの実行で、本来すべきことが不十分であり、すでに「手段の目的化」という病弊が発生していると感じざるを得ない事例が目に付くのも事実だ。

 

<グループ内の共同利用>(社)日本旅行業協会及び(社)全国旅行業協会作成の新法施行に伴う「旅行広告・取引条件説明書面作成ガイドライン」では、その「(36)個人情報の取り扱い」の部分で、表示例として、グループ企業間での共同利用の文例が挙げられている。

このような例示があるせいか、これをベースにして、個人情報取得時の利用目的明示のための文章内に、グループ内で共同利用する旨記載している業者をよく見かける。

 この際気になるのは、このように取得時に明示しておけば、共同利用はフリーパスと思いこんでいる節がある点である。

 グループ内の共同利用は、例え利用目的を具体的に絞り、かつ情報内容を限定しても、利用の管理がずさんになりやすい。個人情報の管理は、自社内でするだけでも、大変な作業であるので、グループ内の共同利用となるとコントロールは難しくなる。むしろ、グループ内の出来るだけ避けた方がいい。どうしてもするのであれば、責任者が会合して十分な協議をし、管理方法をルール化するなど相当高度の体制作りが必要となる。

 個人情報保護法の趣旨は、個人情報の管理がずさんになり、その結果、個人情報が悪用されたり、その危険性が生じることを避けようというものである。したがって、ガイドラインと同趣旨の文面を作成すれば、それでやることは全て終わったと安心されてしまうのが一番困る。大事なのは、個人情報が危険にさらされないような実体のある体制を整えることである。この点が甘くなっては、まさに、「手段の目的化」が生し、肝心の目的がどこかへ行ってしまうことになる。

 

<土産物店に情報提供>上記ガイドラインでは、「当社の保有するお客様の個人データを土産物店に提供することがあります」という文例が挙げられている。私は、このような土産物店に対する個人情報の提供は、原則的には避けるべきと考えている。それは旅行業者がすべきことではないと思っているからである。

しかし、どうしてもするのであれば、その土産物店の情報管理能力を十分に点検し、管理体制を整えていることを確認すべきである。書面的に明示しておけば、それでやることは完了と安心してしまうようなことにならないよう、厳重に注意して欲しいものである。それはまさに、「手段の目的化」である。     

48回--個人情報保護法の病弊――その2

 

<始めに>JR西日本の脱線事故で、収容者情報を公表しない医療機関があり、安否を心配する肉親や同僚が、必要な情報がとれずに右往左往するという場面も生じたようだ。医療機関としては、本人の了解がとれていない個人情報は公表できないと判断したのである。

個人情報保護法が施行された4月1日以降、その具体的な扱いについて、現場では様々な混乱が生じているようだ。

「受け取った名刺を、今までは大事に整理して持っていたのに、今後はどんどん廃棄しなければいけないのですか」と問われたり、「今後は、受け取った名刺をゴミ箱に捨ててはいけないのですか」と質問されたこともある。

大学のOB会の幹事から、「今まで通り会員名簿を作成していいのですか」と真剣に相談されたこともある。

取引先リストの代表者名や担当者名について、「これも個人情報になるのですか」と質問されたこともある。

名刺も、それ自体個人情報であり、これを整理すれば個人情報データベースとなる。また、非営利団体でも、個人情報を保護すべき義務があるのは営利団体と変わらないので、そこの会員名簿は、個人データベースそのものである。取引先リストでも、そこにある個人名を機軸に考えれば、個人データベースとなる。その結果、個人情報保護法が施行されてみると、その適用については、現場レベルでは様々な問題点が発生しているようだ。

 

<何か問題か>個人情報が問題視される重要な場面の一つに、名簿売買がある。そこで、本来名簿売買自体を禁止する法律を作り、それに罰則を付与しておくという立法作業が必要であった。

名簿売買は、個人情報保護法では無許可譲渡で違法であるが、即、刑事罰というわけではなく、まず主務大臣が必要な命令を出し、それに違反して初めて刑事罰が科せられる。つまり、行政上の命令を受けるまで稼げるだけ稼いで、命令を受ければ即やめることにすれば、刑事罰を受けることはない。結局、名簿売買という商売は、野放し状態になってしまっている。  

他方、個人情報保護法は、各事業所に細やかな義務を課しており、その適用を巡って、現場では悪戦苦闘しているのが現実だ。全くアンバランスである。

 

<情報の質が重要>そこで、現場での混乱を解消させる手段の一つとして、情報の質に着目することを提案したい。情報はその質で保護の程度が変わるべきで、管理体制もそれに対応したものでいいはずだ。

名刺は、差し出すときには、相手がその名刺をその後どうしようと、渡した以上相手に任せているはずだ。ぽいっとゴミ箱に捨てられても文句は言えないし、そうされてもいい情報しか記載されていないはずである。

法人の代表者名や従業員名などは、その法人としてはこれを公表して仕事をしているのであり、それ自体を保護する利益があるとは思えない。その情報の質は、まさに名刺情報にすぎないのである。

各種団体の会員名簿も、そこに所属しているということ自体の情報としては、その保護の程度は低い。そこに記載してある情報は、自宅住所又は勤め先の住所やTEL、FAX番号程度であり、まさに名刺情報のレベルである。

これらの、名刺情報レベルの情報について、これをパスワードを使ってまで管理しなければならないかは極めて疑問である。

問題は、これらを記載した名簿を売買するような行為が社会的に問題なのである。それにより、聞いたこともないところから、ダイレクトメールが届いたりするからである。

これら名刺情報の管理は、不要なものは随時廃棄し必要最小限にしておくこと、ことにデジタル化したデータベースは社外に持ち出さないことにすること、社内の誰にどのような情報があるかを押さえて不公正な利用を禁じるなどの管理をすれば十分であろう。

質の低い情報の管理に神経を使いすぎると、本来厳重に管理すべき、ハイレベルの情報の管理がおろそかになりかねないので、注意すべきである。   

49回 個人情報保護法――病弊―その3

 

<委託と提供の混同>最近は、個人情報保護法に関する情報保持管理契約のチェックを頼まれることが多い。旅行業界では、旅行業者とランドオペレータ、ランドオペレータとサービス提供業者との間の契約のチェックということになる。

 そこで気がつくことは、データの取扱いの「委託」と、手配のための、データを手配先に「提供」することを混同してしまっている契約書が多いということである。大手旅行業者が作成したものにも、その手の混同が相当数認められ、びっくりしている。

 個人情報保護法22条では、個人データの取扱いを「委託」する場合は、「委託」を受けた者に対する必要かつ適切な監督をすることが求められている。

 しかし、こでの「委託」は、いわゆるアウトソーシングのことで、例えば、その会社のコンピューターシステムによる情報管理の全部又は一部を、自ら行わずに、情報処理会社に、下請けに出す場合などを指すのである。

 旅行業者がランドオペレータへ、あるいはこれらのものがサービス提供業者に対し、手配のために旅行者の個人データを送付するのは、個人データの第三者への「提供」であって、「委託」ではない。データの「提供」は、同法の23条で規定されている。

 

<手元の一例から>私の手元にある契約書で、混同の典型的な一例を挙げてみよう。そこには、

「甲(ランドオペレータ)は、乙(旅行業者)から受託した業務の一部又は全部を第三者に再委託するために、乙から預託された個人情報を当該第三者に預託する場合には、乙に対し、再委託先の名称、委託する業務内容、預託する個人情報の内容等を事前に書面にて通知し、乙の承諾を得るとともに、当該再委託先に対して本契約と同等以上の個人情報保護に関する義務を負わせなければならない」

と記載されている。

 これを読んで、皆さんは、何がおかしいか気づいていただけたであろう。

 この条文では、甲は、ランドオペレータでなく、乙の情報処理を下請けする情報処理会社である。この条項は、情報処理会社である甲が、孫請けの情報処理会社に、再委託をするときの規定なのである。

 しかも、この契約書では、甲がサービス提供業者に手配をするときのことがどこにもない。つまり、契約書起案者は、データ処理の「委託」を、手配のための情報の「提供」と全く混同してしまっているのである。

 しかし、これと同様の誤りは、なぜか何回も目にする。是非、自己の会社の契約書がどうなっているか再チェックしてほしい。かなりの会社で、同様の間違をしているはずである。

 

<どんな契約条項になるべきか>では、手配の場合におけるデータの第三者「提供」に当たっては、どのような条項が必要なのだろうか。

 規定すべき内容は、@乙から指示を受けた手配先のみデータを提供することと、そのデータが、手配に必要な最小限であること

A手配先に「空き」がない場合に、甲の判断で同等の他の手配先に対し仮手配が出来るのならその旨、空きがない場合には速やかに乙に連絡してその指示を待つのならその旨、

B 甲における手配完了後におけるデータの廃棄ルール

C       手配先に、情報管理について、一定の義務を負わせることを甲の義務とするのであればその旨と、その義務の内容

などである。     

50回 個人情報保護法

 

<始めに>本コーナーの45回において、JR西日本(西日本旅客鉄道)の列車の脱線事故において、医療機関の中で、個人情報保護法を理由に収容者情報を公開しない医療機関があり、家族や会社の同僚が収容先を探すのに苦労したという実例に触れた。

旅行業者にとっても、旅行先で旅行者がバス事故や、列車事故、飛行機事故、時には、テロに巻き込まれるなどの事故が起こりうる。その際、旅行業者としても、被害者の名前や、居住地、死亡か傷害かなどの個人情報をどこまで公表していいかの問題に直面することになろう。その時にあわてないよう、本コーナーで検討をしておくことにする。

 

<事故の被害者情報はどこまで公表できるか>掲示板に収容者情報を張り出したり、説明会を開催するのは、個人データの第三者への「提供」である。

個人データの第三者への「提供」は、確かに、個人情報保護法23条により、あらかじめ本人の同意を得る必要があるとされている。では、収容者情報の公表を渋った医療機関の判断が正しかったのだろうか。しかし、身元も確認できないのであれば、常識的に考えても、関係者のみならず害者本人にとっても非常に困った事態となる。

23条をよく読むと、そこには、いくつかの例外が定められている。

その中で、同条1項2号では、例外となる場合として、「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき」と規定されている。つまり、このような状況にあるときは、本人の同意を得ずに、個人情報を提供しても違法ではないのである。

 人の死傷を伴う事故が発生したときに、自分の肉親や、同僚、親しい知合いが巻き込まれた可能性があるとなれば、その安否を知りたいと思うのは当然であり、被害者にとってもそれは利益であり、まさに、「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合」である。

 となれば、旅行先で、旅行者が事故に巻き込まれたときに、旅行業者が被害者情報を公表するのは当然のことであり、決して違法ではないのである。

ただ、注意しなければならないのは、被害者の、「生命、身体、財産を保護するために必要」なものに限られることである。人の好奇心をかき立てるだけの情報は、提供してはならない。

 人身事故であれば、原則として、氏名、男女の別、年齢、国籍、居住地区(行政区)は公表していいであろう。しかし、住所やTEL番号等は不可である

 

<個別の照会>さらに、肉親や親しい関係者による個別の照会に対しては、身元や安否確認のために、そのために必要な範囲内で、身体的特徴や状況、所持品など、詳細な情報提供も、前述の例外規定により許されるはずである。

 ただし、この場合に注意しなければならないのは、肉親や関係者になりすまして情報を得ようとする者がいることである。

そこで、情報を提供するに当たっては、果たして、相手が情報を提供してもいい肉親や関係者なのかどうかのチェックが必要である。その時に、何らかの形で、身元確認が出来ればいいが、至急の場合は事実上不可能なことが多い。その場合には、逆に、探索している対象者の情報を提供してもらい、それに該当する者が収容されているかどうか解答するという方法がいいであろう。

 

<マスコミに対しては>個人情報保護法では、その50条で、「放送機関、新聞社、通信社、その他の報道機関(報道を業として行う個人を含む)が、その個人情報を報道の用に供するときには、個人情報保護法が適用されない」ことになっている。

 したがって、マスコミの問い合わせに対しては、原則的には、それに答えてかまわないといえよう。ただし、本人がマスコミに情報を提供することにつき積極的に拒絶している場合や、報道の目的を超えていることが明らかであるときには、理由を説明して提供を拒絶すべきである。  

51回 個人情報保護(その5) 旅行契約申込書についての注意

 

<旅行申込書の点検>旅行業者から、旅行契約の参加申込書等に、個人情報の利用目的をどう記載したらよいか、よく相談される。

個人情報保護法では、個人情報取得時に、その利用目的を明示しなければならないことは、よく理解されているようだ。過度に神経質になる必要もない。

個人情報保護法18条2項では、「個人情報を取得するときには、あらかじめ、本人に対し、その利用目的を明示しなければならない」とされている。が、同条4項4号で、「取得の状況からみて利用目的が明らかであると認められる場合」は、2項は適用されない。情報提供する個人が、自己の個人情報がどう利用されるか判っている場合は、敢えて、利用目的の明示は不要であり、不必要というわけである。

旅行業者が旅行契約を履行するためには、必要な手配や手続きをしなければならないことは当然で、申込者も当然それを認識している。これはまさに、「取得の状況から見て利用目的が明らか」な場合である。

見方を変えれば、「旅行参加申込書」等のタイトル自体が、その「利用目的」を明示していると言ってもいいであろう。

従って、その申込書が旅行契約の申込書であることが明らかであり、かつ、そこに記載する個人情報が当該旅行契約の目的達成に必要な個人情報である限り、改めて利用目的を明示することは不要である。

しかし、実際の申込書を見ると、気になる点がいくつか生じる。

まず、自宅住所の他に、勤務先の住所や役職を記載させることが多い。これは、自宅が不在の時の連絡先であったり、緊急連絡先の役割を果たすのであろうが、申込者から見て、利用目的が明らかといえるかはかなり微妙である。

中には、過去の渡航回数や渡航先、その会社の利用回数などを記載させる欄があったりする。ここまで来ると、これはアンケート調査であり、旅行申込者にとって、旅行申込書の利用目的からは逸脱している。

したがって、大事なことは、申込書に、アンケート調査を兼ねさせないことである。どうしても、記載させたければ、別の欄をもうけ利用目的を明示することである。

また、自宅住所を記載させたなら、例えば、勤め先などについては、「自宅で連絡が取れないときの連絡先」とか、「緊急連絡先」と、明示して記入させることである。

そこで、今まで慣れ親しんで使っていた申込書をもう一度点検し直して欲しい。当該旅行の完遂のためには不必要な事項がないかをチェックし、仮にあれば、削除するか、その部分については、利用目的を明示する必要がある。

なお、JATAの「個人情報取り扱いガイドライン」では、本稿の見解とは違い、申込書や取引条件説明書面に、一般的に、手配のために利用する旨の表示を勧めている。法律の適用は、より慎重にすることに越したことはなく、これも一つの見識であろう。

従って、表示をするかどうかは、各社の判断で決めることになるが、仮に、ガイドラインのような表示をしても、手配に必要な範囲を超えた記載を求めるときには、個別に利用目的を明示する必要のあることは忘れないようにして欲しい。

 

<カーボン式に注意>旅行申込書がカーボン式で、申込書に記入すると、自動的に保険申込書や、信販会社のカード申込書が作成されているという例をよく見かける。しかし、これは、個人情報保護法上は問題である。事前に保険の申込みをするか、カードを作るかの同意を得る工夫が必要であろう。

 

<アンケートに注意>旅行者にアンケートの協力を求めることはよくあるようだ。アンケートは、営業上貴重な情報を得ることが出来、マーケティングの手段としては重要であろう。しかし、その際、回答者の氏名や住所、TELやFAX番号、メールアドレスの他、年齢や生年月日、職業、趣味、過去の旅行回数や目的地、今後行きたい地域や国などの個人情報を書き込ますことが多い。これは明らかに、旅行の完遂以外の目的のための利用である。

従って、この場合は、「市場調査や統計資料のために利用する」とか、「新な商品や、サービス、キャンペーンの案内を送るために利用する」とか表示し、その利用目的を明示する必要があるのは当然である。    

52回 旅行契約取り消しのトラブル 

<取消料のトラブルの頻発>旅行者と旅行業者とのトラブルで、最も多いタイプの一つが、申込金支払い前の取消料のトラブルである。

旅行者が一旦パックツアーや手配の申し込みをしたが、申込金の支払いをしないうちに、やっぱりやめますと申し出たときに、旅行業者が取消料を請求してしまうというケースである。

日本の民法の原則では、契約書を作成していなくても合意に達すれば、口頭でも契約は成立するというのが原則である。そのため、一般の取引社会でも契約が成立したかどうかで、トラブルになることは多い。

旅行契約の場合もそのようなトラブルが発生しやすい分野なため、旅行契約約款で、申込金の支払いという極めて判りやすい基準で、契約の成立を仕切っている。これは極めて合理的な制度で、これによりトラブルは相当程度防止できるはずである。

しかし実際は、申込金を受け取っていないのに取消料を請求してしまうことが多く、トラブルになるケースが後を絶たない。

取消料は、あくまでも、契約成立後のキャンスルの場合であり、契約が成立していなければ、発生する事はないので厳重に注意されたい。

 

<契約成立時期の確認>企画旅行契約の成立は、募集型、受注型いずれも、旅行者が所定の申込書の提出とともに申込金を支払い、旅行業者が解約締結の承諾をし、申込金を受理したときに成立する。

手配旅行においても、旅行業者が、同じく契約締結を承諾して、申込金を受理したときに成立する。

以上は、旅行契約約款に明記されていることで(募集型約款5,8条。受注型約款6,8,23条。手配約款7,8条))、旅行業にたずさわる者なら、誰でも知っていなければならないものである。

これが原則で、契約の成立は、「申込金の受理」という極めて判りやすいポイントで決まることになっている。ただし、これには例外がある。

インターネットの時は、通信契約であるから、契約を承諾する旨の通知を発したとき(承諾も電子通知の時は、相手に到達したとき)に成立する。

団体・グループの受注型企画旅行については、申込金の支払いを受けるとなく契約の締結を承諾できる。

手配旅行の時に限ってであるが、書面による特約があれば、申込金の支払いを受けることなく、契約締結の承諾で契約は成立する。

これらの例外も上記の約款に明記されており、これら限られた場面以外は、申込金の支払いで、契約は成立する。逆に言えば、申込金の支払いを受ける前に、キャンスル料を請求することは出来ないのである。

 

<予約契約について>募集型企画旅行契約では、スポーツ観戦が組み込まれているパックツアーなど、予約が殺到するツアーがある。このような予約契約でも、原則通り、申込金の支払をする事で契約成立となる(募集型約款6条)。それまでのキャンスルで、取消料は請求できないので注意されたい(但し、会員制の時は、会員番号の通知で契約成立になる)。  

53回 取消しによるトラブル

 

旅行契約の取消しに関しては、トラブルになることが多い。今回も、実際に起こりやすい事例を使って、検討してみよう。

 

<ケース1>空港で受付を終えた直後、同行者が持病の発作を起こしたためやむなく旅行を中止したところ、旅行業者は、旅行開始後の取消しなので取消料は100%となるとして請求した。旅行者はこれに納得できないとして、トラブルとなった。

 

受付後出国手続きまでの間に、旅行者が旅行を中止するというケースは結構多い。親が危篤とか家族が交通事故というような緊急連絡が入ったとか、同行者がパスポートを忘れたので自分も旅行を中止するとかいったケースである。

開始後かそれ以前かで、取消料が旅行代金の100%になるか50%ですむかの違いが出る。そのため、旅行開始後かどうかの判断の違いで深刻なトラブルになる。

形式的に考えると、受付けた以上は旅行が開始したと考えることも十分に理由が有る。しかし、まだ、出国手続きもしておらず、空港で出発の準備をしている段階なのだから、旅行は開始していないとの解釈も成り立つ。

解釈の分かれるところでは裁判所に判断してもらうのが一番なのだが、日本では、トラブルが生じても訴訟になるのは稀なため、裁判所の判例はまだないようだ。

私としても、開始後かどうか判断に迷う。ただ、旅行業界の健全な発展を考えると、判断が分かれるような微妙なポイントについては、旅行者に有利に対処する方がいいのではなかろうか。

将来的には、旅行契約約款で、どの時点で旅行開始と見るか、明確な基準を示しておいた方がいいであろう。が、現段階では、少なくとも、窓口レベルで無用な混乱が生じないよう、社内的には、よく検討の上、どの段階で旅行開始と扱うか明確に決めておくべきであろう。

そして、私としては、契約書面で、どの段階で旅行開始とみるかを明記しておくことをお勧めする。

 

<ケース2>22時という遅い出発のツアーで、当日の20時過ぎに急遽キャンスルせざるをえなくなった。が、営業時間がすぎていたので旅行業者に連絡がとれなかった。にもかかわらず、旅行業者は、開始後のキャンスルと言うことで100%の取消料を請求しトラブルとなった。

 

この種のトラブルも時々耳にする。このケースは、営業時間を過ぎていて連絡が取れなかったという不利益を誰が負うべきかという問題である。

結論的には、この点は、消費者である旅行者に負わせるわけにはいかないであろう。

旅行業者としては、遅い出発のツアーを企画販売した以上、出発までの連絡先は確保しておくべきである。そこまで出来ないとあれば、本件のように連絡できなかったという事態についての不利益は、自ら負うべきである。

旅行業界の健全な発展のためには、このような解釈とスタンスは是非は必要であろう。  

54回 取消しによるトラブル(その2)

 

旅行の取消しを巡っては、様々なトラブルが生じる。そこで、よく起こりやすいケースを素材に、法律的な問題を検討してみよう。

 

ケース1 代理権の有無に注意!

定期健康診断で病気が発見され、医師から手術を勧められた。しかし、すぐ手術を受けなければならないというわけでもなく、自覚症状もないので、申し込んだ旅行については、そのまま参加するつもりでいたところ、心配した息子が、独断で、旅行契約をキャンスルしてしまった。旅行は幸いに再手配が出来たが、キャンスルについて、旅行業者が取消料を請求してトラブルになってしまった。

 

<検討>息子から取消して欲しいと言われれば、旅行業者としては、それを受けて、取り消してしまいそうである。しかし、そこには、大きな落とし穴がある。

例え息子でも、当然に本人の代理人になるわけではないので、特別の授権をされていない限り、独断でキャンスルは出来ないのである。多くの場合、息子は親の意向を代弁しているであろうが、今回のように、意向が一致していない場合には、トラブルとなる。

旅行業者としては、本人の意思確認をするか、委任状を提出してもらう必要があったのである。それを飛ばして取消しの処理をしたのでは、取消自体が無効であり、取消料はとれないのである。

この事例では、再手配が出来たので、取消料だけの問題となったが、再手配できないと、損害賠償の問題に発展しかねないので気をつけて欲しい。

もっとも、民法には、「表見代理」という制度(109条)があり、代理権があるような外観があり、第三者がそれを信じるのが相当な場合であれば、無権代理も有効とされる。息子が、最初の申込み段階から代理して手続きをしているとか、以前に何回も、親を代理して契約処理をしているような事情があれば、息子の取消しの意思表示も、「表見代理」で有効ということもありうる。

しかし、このように、有効とされるのは例外であり、実務としては、面倒でも本人の意思確認をするということを心がけて欲しいものである。

 

ケース2 延泊が出来なくなったキャンスルケース

6日のパックツアーで、2日間延泊するということで旅行契約を結び、申込金を支払った。しかし、出発まで1ヶ月を切ってから、旅行社より「延泊のホテルが確保できないので、延泊は出来ない」と言ってきた。「それなら、旅行をキャンスルしたい」というと、旅行社から「1ヶ月を切っているので、キャンセルするのなら、キャンスル料が必要」といわれ、トラブルとなった。

 

<検討>この場合は、延泊が契約の内容として確定的になっていれば、延泊が出来ないこと自体が旅行業者の債務不履行となる。取消料の請求が認められないどころか、債務不履行として、損害賠償の問題が発生しかねない。

申込金を支払った時点で契約は成立するので、旅行業者としては、延泊の手配が出来るのかどうか、その時点までにはっきりさせておく必要がある。はっきり出来なければ、申込金の受領を留保するのがベストである。

申込金を受領するにしても、延泊が出来なくても旅行に参加するのか、延泊が出来ないのなら旅行を取りやめるかの意思確認をしておき、その結果を旅行申込書等に書き添えておくべきである。

延泊できなくても参加するという意思表示があれば、その意思表示に反してキャンスルするという旅行者には、取消料がとれるのは当然であるが。しかし、そうでなければ、取り消し料は取れないのである。

なお、この場合、もう一点注意して欲しい。それは、延泊が出来るかどうかを取り決める判断時期をはっきりさせておくべきである。例えば、「旅行開始日の前日から起算して20日目までに、延泊の手配が出来ないときは旅行契約が失効する」としておくのがいい。この場合、20日までに手配が完了しなければ、契約は当然に失効し、取消料の発生はなく、既に受け取っていた金銭を返還することになる。

いつまでも、旅行できるのかどうか判らない不安定な状態を続けることは、それ自体紛争の種を作るので、このように、基準をあらかじめ明確にしておくべきである。   

55回 旅程保証と消費者契約法

 

前回に引き続き、今回も実際に起こったトラブルを実例に、法的な問題点を検討してみよう。

 

<事例>現地でチャーター便に乗り変えて目的地に行くということになっている、「秘境ツアー」のパックツアー。説明会では、「間違いなくいける」と繰り返され、それなら行こうと申し込んだ。

ところが、現地では天候不良が続いて、秘境である目的地に行けずに待機していたが、帰国日になってやっと天候が回復して飛べることになった。帰国を延ばせる一部の旅行者は目的地に行けたが、他のものは、目的地に行くことなく、帰国した。ところが、帰国後、目的地に行けずに予定通り帰国した旅行者に対し、旅行業者は、チャーター便は飛んだのだからということで、変更補償金のみしか払おうとせず、旅行代金の払い戻しに応じないためトラブルとなった。

 

<断定的判断>まず気になるのが、「間違いなくいける」という説明の仕方である。これは消費者契約法で禁じる、「断定的判断」(4条1項2号)である。

 天候次第でチャーター便が飛ばないことがありうるのだから、「天候の関係でチャーター便の飛ばないこともありうる」旨、説明会等で明示しておくべきものであった。それを聞いて、申し込みを断念する者もあろうが、それは営業上やむを得ないものである。それを恐れて、虚偽を行ったり、曖昧にしたりするとトラブルになり、かえって高いものにつくのである。

 秘境ツアーで、その目的地に行けるか否かは、その契約にとっては「重要事項」であり、本件は、旅行者から、消費者契約法4条1項によって、契約全体を取り消されてもやむを得ない状況であった。

となれば、仮に旅行が実行されていても、目的地に行けなければ、原則として、受け取った旅行代金の全額を返すことになる。もっとも、「損益相殺」により、旅行が実行されたことによる利益部分は控除するが、利益にならない部分は控除されない。本件では、チャーター便が飛ぶのを待って待機していた時期の宿泊費等は利益に含まれないとして控除されないであろう。

 

<約款での処理は>帰国日に手配できても、当初の旅程での参加が不可能なのだから、必要な旅行が提供できたとはいえない。変更補償金だけで処理できる事案ではないのである。

旅行契約約款では、旅行サービスが受領できなかった場合は、その部分の旅行代金から、当該旅行サービスに対して取消料、違約料その他の既に支払い、又はこれから支払わなければならない費用にかかる金額を差し引いたものを払い戻せばいいことになっている(募集型、受注型約款16条4項)。

消費者契約法では前述の取り、費用の控除が認められないので受領できなかった旅行サービス分全額を返還せざるをえず、さらに、無駄になった待機のための宿泊費等を返還せざるを得ないことになる。旅行契約約款による場合より旅行業者の負担は重い。

このように見ていくと、旅行業者は、旅行業法とその関連法令、通達だけでなく、消費者契約法にも注意を払うべきことが判っていただけたと思う。   

56回 ロンドンの連続テロとキャンセル料

 

<ロンドンの連続テロ>ロンドンでは、7月7日に地下鉄とバスに対する大規模なテロが発生して世界を震撼させたが、21日にも、二度目のテロがあり、世界を驚かせた。

海外旅行に対するテロや天変地異の影響は大きく、旅行のキャンセルが多発する。スマトラ沖地震の時も、キャンセルが続発したが、今回のテロの影響も大きかった様だ。

旅行者が不安を感じてキャンスルすることは止められないとしても、問題は、その時にキャンセル料が発生するかどうかである。

 この点については、4月1日に施行された新旅行業法に於いて重要な改正があり、本コーナーの第38回で既に解説しているが、改めてこのロンドンのケースで検討してみよう。

 

<約款はどう変わったか>旅行者が旅行契約をキャンセル出来る場合として、旧約款では、「天災地変、戦乱、暴動、運送・宿泊機関等の旅行サービス提供の中止、官公署の命令その他の事由により、旅行の安全かつ円滑な実施が不可能となり、又は不可能となるおそれが極めて大きいとき」とあった。

これが今回の改正で、「天災地変‐‐‐‐‐その他の事由により」との部分を、「天災地変‐‐‐‐‐‐その他の事由が生じた場合において」となり、現実に事由が発生したことが要件になった(募集型、受注型のいずれも約款16条2項3号。)。

 これは地味ではあるが重要な改正である。この改正により、取消料無しでキャンセルできる場合が、地域的にも時期的にも、かなり限定された。

 

<適用範囲は?>テロや天変地異の場合、いつも問題になるのが、過剰反応によるキャンセルである。直接関係なさそうな時期や地域についてもキャンセルが多発してしまう。この場合、法は以上の通り改正されたといっても、旅行業者としては、具体的なケースで、どの範囲までがキャンセル料なしの解除となるか、その見極めは難しい。この点については、判例もなく、その判断は我々法律家にとっても難問である。

今回のロンドンで起こったテロにより、テロは連続するということと、それを防止することは極めて困難であることが露呈してしまった。従来は、「一度テロがあると、その後しばらくは警戒が厳重であり、かえって安全である」といった楽観論も結構説得力があった。が、今回は、そうとはいえないことが実例で示されてしまった。さらに、二度有ることは三度あるということで(英語でも同じ趣旨の諺がある。Accidents always come in threes)、ロンドンでは警戒がさらに厳格化されているそうだ。

このような状況下では、ロンドンを行程の一部としている既存の旅行契約は、ロンドンをはずせない限り、全てキャンスル料なしの取消しとせざるを得ないであろう。テロが「生じた」という状況が、現在、そしてこれからしばらくは続くと解さざるを得ないからである。

ただ地域は、テロという「事由が生じた」場所と限定できるので、ロンドン以外の他の都市は除外できるであろう。例えば、ニューヨークやワシントンは、テロの対象になる可能性は強いし、厳重な警戒が実行されているが、テロが「生じた」わけではないからである。このような場合、旧法では除外できるかどうか文言上は不明確であったが、新法では、除外できることが明らかになったといえよう。

 

<損害が発生した場合>現実にテロや天災地変に遭遇して旅行の続行が不可能になり、取消料や違約金などの損害が発生したとき、これらの損害を誰が負担すべきか。この点も第38回で触れて於いたが、重要なので改めて説明しておこう。

今回の改正で、提供を受けていないサービスにかかる部分の金額から、取消料や違約金等の費用を控除して返金すればよくなった。つまり、解除の際に必要になる費用負担は旅行者となることが明確になった(募集型、募集型いずれも約款18条3項)。

さらに、このような事態においては、旅行業者に特段の故意、過失がない限り(故意、過失の立証責任は旅行者)、旅行業者は、損害賠償を負わないことが明記された(募集型約款27条2項。 受注型約款28条2項)。

 これらは、当たり前のことを明文化しただけともいえようが、これらの改正で、無駄なトラブルはかなり防げると思われる。